44日目 もちろん通常の業務も
「えっ、通常の業務が滞ってるの?!」
怒号にも似た甲高い声が会議中に鳴り響いた。
コタンは久々に社長に直接責められ、頭が真っ白になった。顔は熱くなったが、不思議なことに体は逆に吹雪にさらされたように冷たくなった。
「は、あの……」
「遅れそうなときはその都度報告しないとだめだよ! アムラト君、支社の他の人は大丈夫? 滞ってないよね?」
「はい、そちらは……」
「呪文書の注文は減っては来たけど、確実にお客さんが待ってるものだからね! これも期日までには仕上げないと! で、どうなの? ほかに遅れはないの?!」
「はい、これから調……」
「今日中にさ! 全員が何をやっているか、一覧にして! それで、優先順位を決めるからさ、作業の! 午後までにいったんまとめてね。これ、今日の最優先でね!」
午後までにはあと30分ほどしかなかった。その30分も、この会議中に終わってしまうに違いない、とコタンはぐるぐる渦巻いている頭の中で考えた。
「コタン君、他の業務を恃んだりして大変だけどさ、遅れは会社にとっても命とりだから! よろしく頼みますよ」
でも、と言いかけてコタンは口をつぐんだ。「でも」という前に自分に非がないか考えよう。先日受けさせられたセミナーの声が頭の中に響く。
(そんなのやってるヒマないじゃないですか……)
会議の後半の内容はほぼ覚えていなかった。
会議が終わって間を開けず、コタンはアムラトのもとに向かった。
「あの、すいませんでした、自分のせいで」
「いや、運が悪かったね……。全員の業務を書き出すのはもう今月に入って3度目くらいだから、それは大丈夫。提出してもどうせ返事は帰ってこないしね」
上司のアムラトは意外にけろっとした態度だった。
「今日はとりあえず、呪文書の残ってる書写の方から片付けてね。全く進んでないと報告するのはちょっとまずいから」
「はい、分かりました」
ちょっと気が楽になった。
しかし、仕事中、いつ社長から連絡が入るかわからない。そして、突然ルーチン業務とは別の依頼が出され、一日がつぶれてしまうかもしれない。
その可能性を考えるだけで、コタンは気を重くするのだった。
本社ではまた一人退職者が出たらしい。
支社の誰かがうわさ話をしているのが耳に入った。
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