第778話 飛行船……?

「おい、それは何の冗談だ?船が空を飛ぶはずがないだろう」

「いや、まあ……そう言われるとは思ったけどよ、本当の話なんだって」

「ギギッ、アイツラノフネ、キュウニウエカラフッテキタ!!」

「馬鹿な、あり得るはずがない!!」



ミノの言葉にグランは首を振るが、話を聞いていたレナ達はミノとゴブリンの話を聞いてお互いに頷き合い、ルイが口を挟む。



「その話は本当なのかい?船が空を飛んできたというのは……」

「ああ、あいつらの船がゆっくりと空の上から下りてきたんだ。正直、あれを見た時は俺もこいつも驚いたぞ。あんな馬鹿でかい船が空から降ってくるなんて信じられねえよ」

「団長、まさか……!?」

「ああ、恐らくは……飛行船だな」

『飛行船だと!?お前らが王都で乗っていたあの船の事か!!』



飛行船という単語を聞いてカツは驚きの声を上げ、彼とダンゾウは乗った事はないが飛行船の存在は知っていた。今は亡きマドウとワドルフが作り上げた「フライングシャーク号」と名付けられた船、それをレナの付与魔法によって船を浮かばせ、火竜に挑んだ。


しかし、飛行船がまさか獣人国でも建設されていたなど想像さえも出来ず、あの大魔導士と呼ばれたマドウと、ヒトノ国一の職人と謳われたワドルフが数十年がかりで協力して作り出した飛行船を獣人国が既に完成させていたなど信じられない。しかし、現実にミノ達は船が空から下りてきた場面を見たという



「信じがたい事だが、仮に獣人国が飛行船を完成させていた場合……奴等がこの島に上陸できた理由を説明できる。奴等は空を移動してこの島に降りたんだ」

「ば、馬鹿なっ!?」

「お待ちください、この島にはペガサスやグリフォンなどの魔物も生息しています。仮に空を飛ぶ船が存在したとしても、どうやってペガサスやグリフォンの攻撃を逃れて……あっ!?」

「魔除けの石……恐らく、巨大船に積み込まれた魔除けの石の効果によって船は攻撃される事もなかったのでは?」



飛行船の存在を初めて知ったエルフの里の者達には信じられない話だったが、仮に獣人国の軍隊が飛行船を所有していた場合、今までの謎が全て解明できる。


大陸から訪れた彼等が島に乗り込めたのは飛行船のお陰であり、いくら島の周囲が岩山に取り囲まれた絶海の孤島であろうと、障害物が存在しない空の上ならば問題なく島に着地できる。普通の飛行船だけならばペガサスやグリフォンなどの魔物に襲われるが、魔除けの石の効果で追い払える。障害物も邪魔者も消した獣人国の軍隊は島に乗り込んできたのだ。



「くそ、盲点だった……まさか飛行船を既に他の国が完成させているとは!!」

「ですが、待ってください!!仮に私達が乗っていた飛行船と同じ原理で動かしているとしたら、もしかしたら獣人国にもレナと同じように地属性の付与魔法の使い手がいるという事になります」

「俺と、同じ……?」



イルミナの言葉にレナは動揺を隠せず、これまでの人生で自分と同じように地属性に特化した付与魔術師などレナは出会った事がない。そもそも付与魔術師は希少職であるため、今までにレナは一度も自分と同じ付与魔術師の称号を持つ人間と出会った事がない。


仮に獣人国の船がマドウとワドルフが開発した飛行船と同じ原理で動いている場合、巨大船には船を重力の力で操作する存在がいるはずである。しかし、まだ確証は得られず、もう少し調べる必要があった。



「相手が飛行船を所持しているとなると、色々と厄介だ……もしも空の上から探索された場合、こんな場所では隠れる事も出来ない。やはり、すぐに隠れ場所の多い南里の避難するしかないな」

「わ、分かりました……では、すぐに南里へ向かいましょう」

『おい、待てよ!!ここにいる全員、相当に疲れてるんだぞ?こんな状況で無理に移動したら死んじまう奴もいるかもしれないぞ!?』

「確かにカツの言う通りだ……正直、限界が近い者も多い」



カツとダンゾウは夜間の移動に反対し、特に怪我人にこれ以上に無理をさせると死んでしまう恐れがある事を示す。しかし、獣人国の軍隊が飛行船を所持している事が判明した以上、夜が明けた場合は飛行船はすぐにもレナ達の捜索を行い、居場所を特定される危険性がある。避難するとすれば視界が封じられる夜間しかないのだが、怪我人の事を考えると無理な行軍は犠牲者が生まれる可能性も高い。



「団長、どうしますか?もう手持ちの回復薬もありません」

「僕の回復魔法でも全員の治療は不可能だ。いったいどうすれば……」

「おう、そういう事なら俺達に任せな!!他の連中を呼び寄せて怪我人を運ぶのを手伝ってやるぜ!!」

「お、お前達が……?」



ミノの言葉にグランは焦った表情を浮かべ、外見は魔物にしか見えない魔人の申し出に戸惑うのも無理はない。だが、今は背に腹は代えられず、レナは魔人達の協力を申し込む。

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