第682話 リョフイの最期
火竜との戦闘で既に負傷したカインだったが、それでも彼は戦う事を諦めず、上空へ飛翔した火竜の元へ追いつく。カインの相棒である飛竜は大将軍が乗るのに相応しく、竜騎士隊の飛竜の中でも最も速度が速い個体だった。
ケルベロスとの戦闘では怯えていた飛竜だったが、仮にも火竜と同じく竜種である飛竜は相手が自分よりも強大な存在であろうと主人の命令ならば言う事を聞く。それが命懸けの命令であろうと飛竜は躊躇わずに行動を移す。
火竜とケルベロスの違いは存在感はどちらも圧倒的ではあるが、ケルベロスの場合は近づくだけで生命力を奪う力を持つのに対し、それが飛竜の本能に訴えて近づく事も出来なかった。しかし、火竜の場合は圧倒的な威圧感で他の生物を恐怖に陥れるが、その恐怖に打ち勝つ術ならば飛竜も習得している。
――死ぬときは一緒だ、共に行くぞ!!
カインの心の叫びを感じ取った飛竜は命を賭して彼を火竜の背中に乗るリョフイの元にまで運び出し、全身全霊の一撃を彼に繰り出させるために接近する。
「――くたばれっ!!」
「うぎゃあああっ!?」
「グガァッ……!?」
迫りくるカインに対してリョフイは反応が間に合わず、彼が突き出したランスの一撃を受けてリョフイの身体に血飛沫が舞う。そして火竜はリョフイに悲鳴を耳にして驚いた表情を浮かべるが、すぐに自分の近くに存在する飛竜の存在に気づき、尻尾を振り払う。
「ガアアッ!!」
「シャアッ!?」
「ぐはぁっ!?」
空中にて振り下ろされた火竜の尻尾を受けて飛竜は叩き落され、背中に乗っていたカインも地上へ向けて墜落する。強烈な一撃を受けてどちらも意識を失いかけるが、カインの耳元によく聞きなれた声が響く。
冷静に考えれば声の主がこの場に現れるなど有り得ない話なのだが、カインは落下の最中に目を開き、そしてはっきりと目にした。それはヒリューに乗り込んだミナが自分の元へ近づく姿を――
「――お父さん!!」
「ミナ……!?」
「シャアアッ!!」
ミナはヒリューに乗り込んだ状態で父親に手を伸ばし、どうにか救おうとした。ヒリューも共に地上へ向けて降下し、それを確認したカインは腕を伸ばす。だが、あと少しという所で二人の腕は届かない。
このままでは娘も危険に晒すと考えたカインは自分から離れるように口に出そうとしたが、もう声も碌に出せない状態だった。もう駄目かと思われた時、共に落ちていた相棒の飛竜が翼を広げてカインをミナの元に送り届ける。
「シャアッ……!!」
「ぐあっ!?」
「お父さん、掴まって!!」
最後の最後に力を振り絞った飛竜のお陰でミナはカインの腕に掴む事に成功し、その様子を確認したカインの飛竜は満足したかのように鳴き声を上げ、地上へと墜落した。その光景を確認したカインは共に死のうと約束したのに自分を助けるために死を選んだ飛竜に涙を流す。
「……すまない」
「お父さん……ヒリュー!!」
「シャアアッ!!」
カインを救出に成功したミナはヒリューに命じて地上へ向けて着陸すると、上空の様子を伺う。カインの攻撃は確実にリョフイに届いたはずだが、肝心のリョフイが落ちてくる様子はない。だが、火竜の様子が明らかにおかしかった。
地上からは確認しにくいが、火竜の背中には未だにリョフイが存在し、彼はカインの攻撃によって片腕がもがれていた。そしてみっともなく泣き叫ぶ。
「あぁあああっ!?いだい、いだい、いだいぃいいいっ!?」
「グガァッ……!?」
「ぐそぐそぐそっ、よぐも……よぐもぼぐをぎずづけたなぁっ!?」
まるで小さな子供のように鼻水や涙を垂らした状態でリョフイは叫び声をあげ、自分のここまで追い詰めたカインに怒りを抱く。冷静さを失ったリョフイは火竜に彼を殺すように命じた。
「火竜ぅううっ……あいつを、あいつらを……焼き払えっ!!何もかも……全て焼き尽くせぇっ!!」
「ッ――!!」
火竜はリョフイの命令を受けた瞬間、目元を光り輝かせると全身から熱気を放ち、火炎の吐息を放つ準備を行う。だが、ここでリョフイにとっては予想外の出来事が生じる。
リョフイは先ほどの一撃で腕が吹き飛ぶ程の損傷を受けた。その際に彼が身に付けているローブもマントも敗れてしまい、火竜が吐息を放つ時に発する熱が一気に彼の身体に襲い掛かる。そのあまりの熱量にリョフイの身体は蒸発し、彼は悲鳴を上げて火竜の背中から落ちてしまう。
「いぎゃあああっ!?」
火竜から落下したリョフイは残された腕を伸ばすが、火竜の身体に掴まる事は出来ず、そのまま火竜が放った火炎の吐息の最初の犠牲者となった。
――アガァアアアアアッ……!!
胸元に蓄積した火属性の魔力を火竜は一気に吐き出し、鋼鉄さえも一瞬で溶かす程の熱量の火炎放射を地上に向けて放つ。その結果、空中に落下していたリョフイの身体は一瞬で焼き尽くされ、灰と化す。そして地上に存在する建物も焼き尽くした――
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