第555話 七影ジャック

「コネコ……あれをしろ!!」

「えっ!?あ、分かった!!」

「何を言ってっ……!?」



レナの言葉にコネコは一瞬戸惑うが、すぐにレナの意図を察して返事を返すと彼女を人質にした黒装束の男は一瞬だが注意がレナから反れる。実をいうとコネコは何も知らないのだが、レナの考えを読み取って男の注意を引くために返事を行う。


コネコに注意が向いた瞬間にレナは荷車にまだ自分の付与魔法の効力が残っている事に気づいて傾かせる。荷車に乗っていた黒装束の男は体勢を崩してしまい、その隙を逃さずにコネコは男の腕から抜け出すと逆に顔面を蹴り飛ばす。



「うらぁっ!!」

「ぐふっ!?」

「うおおっ!!」



顔面を蹴りつけられた男は荷車から転げ落ちると、その男に対してレナは闘拳を構え、頭上から振り下ろす。最初に付与魔法で戦闘をするときに生み出した技を久々に繰り出す。



「重撃!!」

「うわっ!?」

「にゃっ!?」

「おおっ……!?」

「キャインッ!?」



強烈な一撃が上空から撃ち込まれ、城壁に罅が入った。しかし、攻撃を行ったはずのレナは黒装束の男の姿が存在しない事に気づき、驚く事に地面に倒れそうになっていた体勢から回避したらしく、男は何時の間にか城壁の端に移動していた。


一瞬にして場所を移動した男にレナは驚くが、相手の方はコネコに蹴りつけられた顔面を抑え、どうやら蹴りつけた時に口元を覆っていた布が外れてしまった様子だった。その顔を見たレナは相手がかつて戦ったリッパーと同年代の男だと判明する。




――その男の正体が七影の一人にしてかつてレナが倒した「リッパー」の義兄弟である「ジャック」である事をレナは知らない。ジャックは自分の顔を見られた事に気づき、忌々しげな表情を浮かべながらも向かい合う。




ジャックがレナの命を狙ったのは義兄弟であるリッパーが死んだ要因である彼を殺すため――ではなかった。今回のレナの暗殺に七影である彼が出向いたのは彼の上司にして盗賊ギルドを収める立場の人間からの命令を受けたからである。


但し、命令の内容は彼は新しく入った七影の協力を行えという内容だけであり、直接レナを殺せという命じられたわけではない。今回の命令はあくまでも新たに入った七影の「能力」を把握するように命じられただけであった。



(この小僧がリッパーを殺したというのか……確かに厄介な力を持っている)



しかし、今までは組織の幹部としてレナの命を表立って狙う事が出来なかったジャックだが、新たに入った七影の能力の実験を兼ねて邪魔者を排除するという名目を利用してレナを殺す事を提案する。この提案自体はあっさりと受け入れられ、これで晴れてジャックは堂々とレナの暗殺に動くことが出来た。


但し、実際に相対したレナの実力はジャックの予想を超え、最初の奇襲は失敗。しかも王城から連れてきた飛竜も倒されてしまう。続いて自分を尾行してきたシノを撃退したジャックは敢えて彼女を見逃し、事前に調査した情報を頼りにシノの身に危険が及べばレナが現れると確信して張り込みを行う。


新しく入荷した七影はジャックの申し出に協力し、飛竜やカマギリを使ってレナ達を殺そうとした。だが、結局は飛竜もカマギリもレナ達を殺す事が出来ず、逆に打ち取られてしまう。これでジャックに残された手段は奇襲しかなくなり、城壁に待ち構えていればレナ達が訪れると信じて待機していた。



(こいつは野放しには出来ん……今ここで殺さなければ盗賊ギルドの大きな脅威となりえる!!)



遂に念願の仇と出くわしたジャックは腰に装着していた二つの短剣を引き抜き、両手で構えた。それを見たレナは冷や汗を流しながらも闘拳と籠手に付与魔法を発動させると、二人は向かい合う。


ジャックは本来ならば奇襲が失敗した時点で引き下がらなければならず、七影の中においてもジャックは特別な立場の人間だった。今は亡きリッパーとジャックは盗賊ギルドの「右腕」と「左腕」と呼ばれ、本来ならば私怨で動く事は許されない立場だった。



(待っていろリッパー……すぐにこの小僧をお前のいる場所へ送り込む!!)



だが、数十年来の親友であるリッパーを死に追いやったレナを前にしてジャックは引く事は出来ず、彼は短剣を構えてレナに挑もうとしたとき、足元に異変が起きる。



「うおっ!?」

「何だっ!?」



月夜に照らされているはずなのに城壁全体が「影」に包み込まれ、やがて黒色の触手のような物が出現すると、レナ達の身体に巻き付く。自分の身体に蛇のように巻き付いてきた触手にレナとジャックは戸惑い、一方でコネコ達の方にも同じように触手が襲い掛かろうとしていた。



「何だよ、これっ!?」

「うわわっ!?」

「くっ……」

「ガアアッ!!」



城壁内を覆いこんだ影から出現した触手によって全員が拘束されようとしたが、クロだけは触手から逃れるために駆け出す。

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