第414話 力士の本領発揮

「だ、大丈夫かドリス?生きてるか?」

「ううっ……辛うじて、ですけど」

「そうか……くそ、僕も腹が減ってきて力が抜けてきた」

『グゥウウウッ……!?』



起き上がって来たレナの仲間達を見て片腕を負傷したゴブリンキングは動揺した様に後退り、どうして先ほどから自分が全力で攻撃を繰り出しているのに誰一人として死なないのか理解出来なかった。


これまでに圧倒的な力で敵を屠ってきたゴブリンキングだが、この「人間達」は彼の人生の中で出会ったどんな強敵よりも手強かった。ゴブリンキングに至るまでに幾度も自分よりも強い相手と戦い、倒してきたゴブリンキングだが、レナ達の場合は個人の戦闘力はゴブリンキングに遥かに劣る。それにも関わらずに誰一人として倒しきれないでいた。




――ゴブリンキングは苦戦する理由が分からない理由、それは彼が「仲間」という存在を作らず、常に戦い続けた事が原因である。勿論、味方となる存在はいくらでもいたが、ゴブリンキングの場合は戦闘になった場合は常に自分が率先して動き、敵を屠り続けていた。




力に恵まれたゴブリンキングだからこそ、他者と協力して敵を倒すという考えなど至らず、彼に従うゴブリンはゴブリンキングにとっては只の「手駒」にしか過ぎない。だからこそ共に戦うなどという発想には至らず、ゴブリンキングはレナ達が協力して自分に立ち向かう姿を見て戸惑う。


弱者だと思いこんでいた人間達が力を合わせるだけで自分にも対抗出来る事にゴブリンキングは動揺し、理解が追い付かない。ゴブリンキングを育てたホブゴブリンは彼に唯一伝えられなかった「協調性」を欠如しているからであり、ゴブリンキングは徐々に恐れを抱く。圧倒的に個人の戦闘力は自分の方が戦力が上にも関わらず、弱者同士で力を合わせる事で自分に対抗するレナ達にゴブリンキングは得体の知れない恐怖を感じた。



『グガァッ……!?』

「ギギィッ!?」

「ギィイッ……」



ゴブリンキングは周囲に散らばっているホブゴブリン達に視線を向けると、血走った目で見られたホブゴブリン達は震えあがり、そんな彼等を見てゴブリンキングは舌を鳴らす。自分の配下として付いてきた彼等だが、戦闘に陥る度に自分を恐れてまともに動こうとしないホブゴブリン達に対してゴブリンキングは見下していた。


もしもゴブリンキングがここでホブゴブリン達に命令を与え、レナ達を襲うように指示をすれば彼の勝利は確信するだろう。いくら力が劣るとはいえ、まだまだホブゴブリンの手勢は100匹は残っており、彼等にレナ達を襲わせればゴブリンキングの勝利は確定する。しかし、強者として生まれ育ったゴブリンキングは戦闘の最中に自分の手駒と見下していた相手に助けを乞うなど恥でしかない。



『グガァアアアアッ!!』



咆哮を放つ事で恐怖を振り払ったゴブリンキングはあくまでも一人で戦うため、まずは自分の腕に深手を負わせたドリスを狙う。シノに切りつけられた右足が痛むせいで走る事は出来なかったが、貧弱な人間を踏みつぶす事など容易い事だった。



「まずい……ドリス、デブリ君、逃げて!!」

「やべぇっ!?」

「二人とも、そこから離れて!!」



迫りくるゴブリンキングを見てナオ達はデブリとドリスに逃げるように促すが、どちらも負傷が激しく素早く動く事は出来ない。特にドリスに至っては体力が殆ど残っておらず、立ち上がる事も難しい状態だった。しかし、そんな彼女を守るようにデブリは立ちふさがると、腰を屈めて迎撃の体勢に入る。



「安心しろドリス……お前は僕が守ってやる」

「で、デブリさん……!?いけませんわ、私なんか放って……」

「力士を甘く見るな……僕の奥の手はまだある!!」

『グガァアアアアッ!!』



ゴブリンキングは最初の時のように腕を大きく振り上げ、デブリの身体に向けて左拳を突き出す。それを確認したデブリは意識を集中させるために瞼を閉じると、勢いよく頭を後ろに下げると、ゴブリンキングの拳に向けて振りぬく。



「うおおおおっ!!」

『グギャアッ!?』



振りぬかれた拳に対してデブリが行ったのは「ぶちかまし」であり、本来は相手の胸元、あるいは頭部に頭突きを喰らわせる技である。デブリは自分の石頭を利用して最大限の攻撃を繰り出すと、ゴブリンキングの拳を正面から受け止める。


その結果、足首と腕の負傷で全力で力を出し切れなかったゴブリンキングの方が体勢を崩して倒れ込んでしまう。圧倒的な質量差というハンデを乗り越えたデブリの一撃に仲間達は愚か、ホブゴブリン達さえも圧倒された。


しかし、攻撃を受けたデブリの方も無事では済まず、額から血を流しながらも彼は前のめりに倒れてしまう。勢いに任せて頭突きを食らわせたまでは良かったが、やはりゴブリンキングの一撃は重く、もしも万全な状態で繰り出された攻撃ならばデブリの身体は最初の時と同じように吹き飛ばされていただろう。

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