魔拳士と呼ばれた付与魔術師

第321話 七影最強の実力

「おりゃあっ！！」

「ぐうっ……！？」

「や、やりましたわ！！」

「凄いっ！！」

「やったぜっ！！」

デブリの体当たりによってイゾウの身体が吹き飛び、そのまま彼は壁際の方まで移動する光景を見てレナ達は歓声を上げる。

一方でデブリの方はレナが引き寄せたスケボのお陰で無傷で済んだが、彼は衝突の際の違和感を感じ取り、全員に注意した。

「今の感覚……！？気を付けろ！！そいつは僕の攻撃を躱したんだ！！」

『えっ！？』

「ふんっ！！」

吹き飛ばされたと思われたイゾウだが、空中にて体勢を翻すと彼は壁に着地するように踏みつけ、床へと降り立つ。その様子を見て戦闘職の人間達はいち早くイゾウがデブリの攻撃が当たる寸前に後方へ跳躍して回避した事を知った。

デブリの攻撃で吹き飛ばされたと思われたイゾウだが、実際の彼には何の損傷も与えておらず、逆に攻撃を仕掛けたデブリの方が膝を付く。四股を行う事でデブリは極限の集中力を得られるが、その反動として精神力を大きく消耗してしまう。次の攻撃には休憩を挟む必要があり、残念ながらデブリはもう頼れない。

「今のは、驚かされた。だが、その程度で俺を倒せると思うな」

「おのれ……皆は下がっていろ！！こいつの相手は私がする！！」

「ジオか、お前と戦うのも久しぶりだな」

ジオはイゾウと面識があるらしく、ゴエモンと同様にジオは何度かイゾウと刃を交えた事がある。しかし、分が悪い相手なのかジオの表情は険しく、薙刀を振り抜く。

薙刀で斬りつけてきたジオに対してイゾウは氷華を振り払うと、薙刀の刃の部分が凍り付き、呆気なく砕け散ってしまう。その様子を見てジオは目を見開き、悔し気な表情を浮かべる。

「くっ……ここまでその武器を使いこなせるようになったか」

「もう、かつての俺ではない。お前如きでは相手にならん」

「舐めるなっ！！」

「ジオ様、援護します！！」

ジオが刃が砕けた薙刀を振り翳すと、彼の上空からアリアも攻撃を仕掛け、２人は上下から同時に切りかかる。しかし、それさえも予測していたようにイゾウは両手の刀を振り払う。

「旋風！！」

「ぐおっ！？」

「あぐっ！？」

「そんなっ！？」

刃が振り払われただけで強烈な衝撃が二人に襲いかかり、ジオとアリアの身体が吹き飛ぶ。どちらも将軍級の実力者にも関わらずにイゾウは二人を圧倒する力を誇り、その様子を見ていた他の人間達は恐れを抱く。

七影最強の戦闘力を誇るのは嘘ではなく、かつて同じ七影のリッパーを倒した事があるレナでさえもイゾウの動作には隙が見えなかった。

（強すぎる……けど、本当に打つ手はないのか）

しかし、ここでレナはイゾウに対抗する手段が本当にないのかと疑問を抱く。今までも自分よりも圧倒的な強者を何度も相手にしてきたレナだからこそ、イゾウを前にしても立ち向かう気力は萎えない。

まともに戦って勝てる相手でなければ、普通の人間では考えられない戦法で勝利してきたレナだからこそ、イゾウの行動を確認して対抗手段を考え抜く。

（厄介なのはあの二つの刀だ。触れただけで凍らせたり、ドリスさんの氷塊を解かす程の熱を生み出したり……あの二つの刀をどうにか出来れば勝てるかもしれない）

イゾウの戦闘力の高さは彼の剣の技量というよりも、装備している二つの妖刀が要であるようにレナには思えた。実際にもしもイゾウが普通の刀を装備していたとしたらジオやアリアもあれほど簡単には倒れなかっただろう。

二人が妖刀を警戒して全力を出し切れないのは明白であり、要は二つの刀をどうにか封じ込めることが出来ればイゾウは只の剣士でしかない。レナは周囲の物を見渡し、何か役立つ者がないかと思われた時、デブリを守る時に使用したスケボの存在を思い出す。

（そういえばジオさんの薙刀は触れた瞬間に凍り付いて壊れたのに、俺のスケボは何ともない……アルト君が剣で受け止めた時も壊れていなかったな）

ここでレナは自分のスケボとアルトの所有している剣に視線を向け、ある事実に気付く。それはミスリルのような魔法金属製の武器ならばイゾウの所有する妖刀の攻撃を受けても簡単には壊れず、防ぐ事が出来るという事実を見抜く。

という事はスケボを利用してイゾウの攻撃を防ぎ、その間に一撃を喰らわせる事が出来れば勝機があるのではないかとレナは考えたが、イゾウ自身も相当な剣の達人である事を思い出して迂闊に近づく事は出来ない。

（駄目だ、冷静になれ。まずはあの刀を封じる方法を探すんだ……何か、鎖の様な物があれば巻き付けて封じられるかもしれないのに……鎖のような物？）

ここでレナは競売で出品されたある物を思い出し、あれを使えば妖刀の片方だけでも抑え込む事が出来るのではないかと考えた。