第285話 追跡開始

「なるほど、家族か。ごめんね、ペット扱いして……」

「クゥ~ンッ♪」

「……クロがあっさりと懐いてる。レナ、もしかして犬を飼っていた事がある?」

「昔、じーじが飼っていた犬の世話をしていた事はあったよ」



まだレナが幼かったころ、彼の養父であるカイは老犬を飼っていた。この老犬はレナが5才を迎える前に死んでしまったが、死ぬ直前までカイと共に狩猟に出向いては彼の手伝いを行っていた。


老犬の名前はウルと名付けられ、レナの住んでいた地方では珍しい白色の毛皮の珍しい犬であり、ウルはカイとミレイが不在の時はレナの面倒を見ていた。


まだ幼いレナが無茶をしないように常日頃からウルは共に付き添い、時には悪戯をして叱られていたレナを庇う時もあった。結局はレナが5才を迎える前に眠るように逝ってしまい、ウルを失ったレナは何日も泣き続けた日々を思い返す。


毛皮の色も年齢も異なるが狼という点は共通しており、レナはクロに対してウルの事を思い出しながら可愛がると、クロは嬉しそうにレナの顔を舐める。



「ペロペロッ……」

「ちょ、こらっ……止めなさい」

「クロも私と私の家族以外にこんなに懐くのは珍しい……けど、今は仕事に集中して」

「ウォンッ!!」



シノが注意するとクロはレナから離れると彼女の前にお座りを行う。そんなクロにシノはゴエモンが落とした覆面を渡すと、臭いを嗅がせて覚え込ませる。



「この臭いをしっかりと覚えて」

「スンスンッ……」

「もしかして、そのクロ君にゴエモンを追いかけさせるの?」

「そう、この子は訓練しているから普通の狼よりも鼻が良い。この臭いを辿ればどんなに変装しようと正体を見破れる」

「ウォンッ!!」



自分に任せろばかりにクロは元気良く返事を行い、やがて臭いを完全に覚えたのかクロは地上の方へ顔を向けて観察するように様子を伺う。


クロが地上に視線を向けている中、その際にレナは素朴の疑問が浮かび、どうして今までシノがクロの存在を隠していたのか気になった。もっと早く言ってくれればダリルに相談して屋敷の中で飼う事も出来たのだが、シノが何故相談しなかったのかを尋ねる。



「そういえばどうしてシノはクロ君の事を黙っていたの?もっと早く行ってくれればうちの屋敷で犬小屋も用意したのに……」

「この子は普段から野良犬に変装させて街の様子を調べさせている。何か不審な物を見つけた時、あるいは私が呼び出したときにしか姿を現さないように飼育してる」

「けど、それだとご飯とか大変じゃ……」

「大丈夫、定期的に餌は指定した場所に用意して渡してある。それにこの子はあんまり人が多い場所は好きじゃない」

「……ウォンウォンッ!!」



会話の際中にクロは何かに気付いたのかシノに鳴き声を上げ、地上へ降りるように促す。そんなクロの反応を見てシノはレナに手を差し出し、彼の所有するミスリルの弾丸を求める。



「レナ、その弾丸に付与魔法を施して私に渡して、そうすればレナは私の居場所を特定できるんでしょ?」

「えっ?」

「前にミスリルの弾丸を改造して貰った時、魔法の力を込めればだいたいの位置は掴めると言ってた。だから、私が弾丸を持っていれば居場所を突き止める事は出来るはず」

「それは出来ると思うけど……」



マドウから地属性の魔石を受け取った後、レナは装備品を全て強化した。それはミスリルの弾丸も含まれており、この弾丸には微量ではあるが地属性の魔石も含まれている。なのでレナが付与魔法を施せば効果は一定時間は消えず、更に魔力を辿ればどこに存在するのかも把握は出来た。


付与魔法を施した道具を他人に渡して大丈夫なのかと思われるが、その点は魔力を調整すれば問題はなく、レナはミスリルの弾丸を取り出すとシノに一つだけ手渡す。




「ゴエモンの尾行は私がやる。その間にレナは他の皆に事情を説明して、ついでにダリルの安全も確かめると良い」

「けど、シノ一人だけだと危険じゃ……」

「ウォンッ!!」

「一人じゃない、ここに心強い味方がいる」



シノはゴエモンの尾行は自分とクロに任せ、レナに他の仲間の報告を頼むと、彼女は返事も聞かずにクロと共に建物から降り立つ。その様子を見送ったレナはシノを信じるしかないと判断し、彼女の指示通りにまずはジオの屋敷へ向かう――






――ジオの屋敷の方では騒動が起きており、どうやらダリルに変装していたゴエモンによってジオは負傷したらしく、彼は戻って来たレナを部屋の中で迎え入れた。頭に包帯を巻いたジオは悔し気な表情を浮かべ、彼の治療を終えたアリアの顔も険しい。



「……すまない、奴の変装を見抜けないばかりかオリハルコンのイヤリングを盗まれてしまった。全ては私の不覚が原因だ、許してくれとは言わない……!!」

「そんな、ジオ将軍は悪くありませんよ」

「そうだよ!!元々はあたしたちがおっちゃんが偽物だって気付けば……」

「いや、君たちに何があろうとイヤリングを守って見せると約束したのに果たせなかった私の責任だ……すまない」

「……どうか我が夫の不始末をお許しください、皆様」



ジオの隣でメイドであるアリアも頭を下げるが、彼女の言葉を聞いたレナ達はしばらく黙り込み、やがてデブリが戸惑いの表情を浮かべながら尋ねる。



「えっ……お、夫?」

「あれ、言ってなかったっけ?アリアさんはジオ将軍の奥さんだよ?」

『えええっ!?』



ミナの発言にレナ達は驚かされ、まさかただのメイドだと思っていたアリアがジオの妻だとは思わなかった。

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