第112話 ゴイルとの再会

「ん?あっ……そういう事か!!考えたなおっちゃん!!」

「え?どういう事?」



遅れてコネコも空洞の金庫の壁を見て納得した声を上げるが、レナは3人が何を騒いでいるのか分からずに不思議に思うと、ミナが奥の壁を指差す。



「ほら、ここをよく見て?微妙に壁の色が違うでしょ?これは張り紙だよ」

「あ、本当だ!?」

「くくくっ……そう、この張り紙の部分を引き剥がせば無事にミスリルが出てくるってわけさ!!」



ダリルは張り紙を引き剥がすと壁際に張り付くように設置されていた青色の金属の延べ棒が出現し、大きさの割にはかなり重く、どうにかダリルは二つの延べ棒を取り出して金庫の上に置く。


張り紙を利用して金庫の奥にミスリルを隠していたらしく、これなら金庫を開けたとしても一見は中身は空にしか見えず、普通の泥棒も諦めるだろう。



「これが魔法金属ミスリルだ!!あいつら、金庫を開けて中身がないと勘違いして引き返したようだな!!」

『おおっ!!』



単純なトリックだが、よくよく観察しなければ張り紙の存在に気づく事は出来ず、どうやら屋敷に侵入した者はミスリルに気付く事はなく退散したらしく、どうにか貯蔵しているミスリルは守る事は出来た。


ミスリルが安全だった事は幸いだったが、よくよく観察すると屋敷の中は荒らされたような痕跡が激しく、どうやらレナ達が出かけている間に家探しされたらしい。


勝手に人の屋敷に忍び込むなど立派な犯罪行為だが、仮に警備兵や冒険者ギルドに報告を行っても取り合ってはくれないだろう。下手をしたら冒険者ギルドの仕業かもしれない。



「それにしてもむかつくよな!!あいつら、人の家に勝手に忍び込んで盗みを働こうとするなんて許せねえっ!!あたしでも2、3回しかした事ないぞ!!」

「え、2、3回はあるの!?」

「ああ、盗賊の隠れ家に忍び込んで物色した事ならあるよ。言っておくけど冒険者の仕事でやっただけだから、別に本当に泥棒したわけじゃないからな!?」

「分かってるって……けど、この有様だとここで残るのも危険そうだな」

「全くだ。くそ、こんな事ならあいつらを残しておけばよかった」



ダリルは連れてきた傭兵達を退職させた事を後悔し、もしも屋敷に人が残っていたらこのような強硬手段を取られる事はなかっただろう。だが、不幸中の幸いなのはミスリルが無事だった事であり、後はレナの所有するミスリル鉱石を加工すれば依頼に必要分のミスリルは確保出来る。


だが、その肝心の鍛冶師の方は王都で経営している小髭族から協力を得るのは難しく、カーネ商会を恐れる彼等から力を借りるのは難しい。だからといってここまで頑張った以上は諦める事など出来ない。



「どうにか期日までに鍛冶師を探し出して雇うしかないな……だが、金銭的にも余裕があるわけじゃないからな。雇うにしてもどれくらいの金が掛かるか」

「すいません、ダリルさん。俺も今は手持ちがなくて……」

「兄ちゃん、あたしが受け取った金を返すよ。ここで世話を見てくれるならケチケチしたって仕方ないしな」

「僕もお金を出すよ!!といってもあんまり手持ちはないけど……」

「いや、お前達に迷惑は掛けられない。金の事なら心配するな、どうにか俺が用意するから……」



レナ達もお金を出し合ってダリルに協力しようとしたが、ダリルとしてはミスリル鉱石を持ち帰ってきてくれただけでも有難く、これ以上にレナ達の世話になる事は出来ないと告げる。


しかし、実際問題として資金がなければ鍛冶師を雇うのも難しく、そもそも肝心の鍛冶師も工業区の鍛冶師たちが協力してくれない以上は外部から訪れた鍛冶師を探し出すしかない。



「よし、これから俺は鍛冶師を探してくる。お前等には悪いが、ここでミスリルを見ていてくれるか?また商会が雇った奴等が屋敷に忍び込んでくるかもしれないからな」

「でも、ダリルさんだけで外に出るのは危険じゃないですか?もしも攫われたりしたら……」

『お~いっ!!誰かおらんのかっ!?』



ダリルが屋敷の事をレナ達に任せて自分一人で鍛冶師を探しに向かおうとした時、屋敷の玄関の方から男性の声が響き、その声を聞いたレナとダリルは顔を見合わせる。



「この声……まさか」

「あいつか!?」

「え、誰々!?」

「知り合いが来たの?



聞き覚えのある声を耳にしてレナとダリルは慌てて玄関の方角へ駆けつけ、他の2人もそれに続く。玄関に辿り着くと扉を外側から強く叩きつける音が鳴り、野太い声が響く。



『おい、早く開けんかっ!!わざわざイチノ街まで来てやったのに居留守を使う気か!?』

「この声、やっぱり!!」

「い、今開ける!!」



レナとダリルが同時に扉を開くと、そこには大きな木箱を抱えた小髭族の男性が存在し、その顔を見たレナとダリルは声を上げる。



「「ゴイル(さん)!?」」

「おお、久しぶりだなレナ!!それにダリル!!元気にしていたか?」





――そこにはイチノ街で鍛冶屋を経営しているはずのゴイルの姿が存在し、彼は二人の顔を見て笑顔を浮かべると、肩に抱えていた木箱を下ろす。

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