第79話 ミナの目的

――その頃、4人の中で先頭を走っていたミナは既に二週目の中盤にまで移動をしており、この時点で彼女はレナの姿を探していた。


普通の人間ならば30キロの錘を持たされた状態で15分も全力疾走が出来るはずがなく、彼女は体力が切れたレナに追いつくころかと考えていた。



(……まだ姿見えない。レナ君、本当に走り切るつもりかな?)



ミナは二週目の中間距離まで移動してもレナの姿を捉えられない事に内心驚き、戦闘職ではないと思われるレナが最初にこの試験を受ける時は無茶だと考えていた。しかし、何時までも姿が見えないレナに対して彼女は関心を抱く。



(まさか、本当にこのまま走り切るつもりなのかな?いや、そんな事は出来るはずがない。でも……あの時のレナ君の顔、確かに自信に満ちていた)



試験を引き受ける際に見せたレナの表情を見たミナは強い意志を感じられ、彼が本気でこの体力試験を乗り切るといいう覚悟を感じられた。


だからミナはレナに試験を辞退するように勧めるのを止めたが、時間が経つにつれてやはりレナの判断は無謀にしか思えない。


戦闘職として生まれたミナは子供の頃から自分が他の子供とは違う事に気付いていた。子供の頃から同世代の友達と遊ぶとき、彼女は誰よりも高い身体能力のせいで浮いてしまう。



『ミナちゃん、本当に足が早いよね……かけっこしても全然勝てないや』

『お前さ、もうちょっと手加減しろよ!!本気で走られたら俺達じゃ追い付けないじゃん!!』

『ごめんね、ミナちゃんと遊ぶと凄く疲れるからもう遊べないかも……』



子供の時もかけっこを行えば誰も追い付かず、大人が混じっても彼女に追いつける人間はいなかった。身体を使って遊ぶことが大好きだったミナだが、この高すぎる身体能力のせいで誰も彼女に付いていけなくなり、何時の間にか気付いたら友達が離れていった。



『ミナ、お前は普通の子供とは違うんだ。だからこれからは父さん達の稽古に付き合いなさい』



誰もミナに寄り付かなくなった頃、自分と同じく「槍騎士」の称号を持つ父親から指導を受けるようになり、彼女は寂しさを誤魔化すために一心不乱に稽古に励んだ。そして12才を超える時には彼女は魔物を相手に戦えるまでの力を身に着けていた。


大人になるにつれてミナも他の子達と普通に接するようになり、普通の生活を送る事が出来た。だが、心の奥底では父親以外の人間の中で自分が全力を出し切っても離れない相手を探すようになり、彼女は自分と同世代で対等に競い合える相手を探す。



(魔法学園には戦闘職の子供達もたくさん入学するってお父さんが言っていた……もしかしたら、僕よりも凄い子がいるかもしれない。魔法学園に入学すれば僕も「本当の友達」が出来るかな……)



走っている最中にミナは自分が学園の入学を志望した理由を思い返し、彼女が求めるのは自分と競争出来る程の力を持つ相手、否、友達を探していた。自分が全力を出し切ってもそれを受け止める相手を求め、ミナは試験を希望する。


街道を駆け抜けながらミナは魔法学園に通うまだ見ぬ生徒達の事を考え、何としても今日試験に合格して彼女は長年の悲願を果たすと誓う。やがて二週目の終わりが見えてきたころ、ミナは背後から聞こえてくる足音に気付いて振り返ると、そこには双子の姿が見えた。



「はっ……はっ……くそ、ちょっと急ぎ過ぎたか?」

「大丈夫だって、俺たちが追い越されるわけがねえ……ほら、見ろよ!!ミナちゃんに追いついたぜ!!」

「…………」



自分の後方から迫って来た双子の姿を見てミナは内心ため息を吐き出し、一定の速度を保つ自分に対して追い付いてきた二人は明らかに体力の配分ペースを間違えた速度で走っていた。事実、二人はミナとの距離を縮めながらも全身から汗を流し、体力を消耗し過ぎていた。



(この人達、何をそんなに焦っているんだろう……まだ時間は余裕があるんだからそんなに焦る必要ないのに)



双子も戦闘職ではあるが、普段から身体を鍛えるミナと違い、恐らく普段は運動を行ってはいない事は明白だった。


ミナは他人の筋肉を見ただけでその人間が日々どの程度の身体を動かしているのかも分かる程に高い「観察力」を持つ。



(多分、この人達も受かると思うけどさっきのコネコちゃんみたいにぎりぎりに合格する事になるんだろうな。それにしても……レナ君は凄いな、まだ見えないや)



二週目の終盤に差し掛かってもレナの姿が見えない事に気付いたミナは素直に驚き、まさか自分が追い付けない速度でまだ走り続けているという事実に少しだけ期待感を抱く。



(この調子なら本当に合格するかも……いや、期待は止めておこう。追いついた時、がっかりするだろうし……)



レナの期待を高めれば高める程、彼の姿を見て追いついた時に味わう失望を予想したミナは妙な期待を抱くのを止め、速度を少し上げて一気に追い抜こうとした時、冒険者ギルドの出入口で待ち構えていたコネコが声を上げる。

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