第10話 勇者到来

 ゆっくりと目を開くと、そこは白い空間で、カーテンみたいなものがあった。

 確かピエロトの部屋にはこのようなカーテンはなかったはずだ。

 あと薬品の臭いがする。

 ピエロトの部屋には薬品はなかった。


 ピエロトの頬っぺたには氷のようなものが乗せられている。

 それをゆっくりと外すと、包帯で固定されている。

 このようなことをする人は1人しか知らない。


 氷の袋を避けると、ベッドを椅子のようにして座る。

 ゆっくりと立ち上がる。

 カーテンを開くと、椅子に座って爆睡しているザスティンがいた。

 寝込みを襲われないようにムンとサンが足元をガードしている。


 いえ、寝込みを襲う訳がないです。

 逆に殺されます。


 ピエロトが起きたことに気づいたザスティンは口から涎を垂らしながらこちらを見る、

 ハンカチで涎を拭うと、まだ眠いとばかりにムンとサンがうごめく、

 それでは護衛の意味がないと思うのですがとは突っ込まない、

 だってこっちの勝手な解釈なのだから。


「あの、えと」

「いいよ、気にしてない」

「ごめんなさい、ケーキのことになると夢中になってしまうの」

「それはいいことだと思うよ、とても大好きなんだねチョコレートケーキが」


「そうね、チョコレートだけではなくて、ケーキならすべて大好きよ」

「それは素晴らしいことじゃないか、美味しいものを美味しく感じるということは、吾輩は色々と本を見てきたが、味覚障害で食べものが美味しく感じれない人達がいるんだ」


「それはわたくしも聞いたことがある。異世界もあなたの世界も同じような病があるのね」

「そうだよなぁ」


 その時だったラッパの音が響いた。

 次に沢山の人々が騒ぎ立てる音が聞こえてくる。


 テントの中を走り回る人達がいる。

 どうやらまだ名前の知らないサーカス団員の子供たちのようだ。

 子供たちは大きな声で叫ぶのだ。



「勇者が来たぞ、少し前にパレードが始まった。さぁ勇者を見よう」

「さぁさぁ、勇者はそう簡単にはみれないよー」

「勇者の少年は一体何者なのかあああああ」


 沢山の人々が叫び声をあげている。


「勇者ね、なら、行きましょう、ムンとサンは留守番ね」

「くううん」

「くくんん」


「仕方ないでしょ、勇者がいると護衛が頑丈になるの、下手したらあなた達が殺されることだってあるのよ?」


 ムンとサンは落ち込んでしまい、医務室の端っこで不貞腐れてしまった。


「さぁピエロト、行きますわよ」


 ピエロトとザスティンは勇者パレードの会場へと向かった。


―――――――――――――

サーカス団テント→勇者パレード

―――――――――――――


「それにしてもすごい人だかりだよな」

「そうよ、勇者様はすごいのよ」

「そんなザスティンも勇者ファンの1人かい?」

「もちろんよ、勇者様はまだ魔王を倒していないけど、5隊長の1人、空の魔人を倒したそうなのよ」

「それってすごいことなのか?」

「そうよ、空の魔人は実体のない魔法の存在だとされていた。それを勇者様が倒したのよ」


「なんかザスティンの話方がアイドルファンそのものになってるな」

「アイドルってなに」


「いや、気にすんな」

「きゃあああああ」


 なぜかザスティンが変貌してしまったのは、

 勇者パレードの真ん中を一人の勇者が歩いている所だった。

 仲間の存在がないのは気になる所だったが、

 その隣には偉そうにウィスズン市町がみんなに手を振っている。


 しかしみんなが手を振っているのは隣の勇者であることに、

 どうやら気づいていないみたいだ。


 ザスティンも1人の女になってしまっている。

 あの2体のムンとサンがこれを見たら、きっと絶望するだろうな、

 テントに置いてきて良かったと、この時のピエロトは思った。


 ピエロトは周りを分析する。


 武器屋と防具屋と雑貨屋がある商店街の地区も通るらしく、

 沢山のお客さんが入っている。

 どうやってあの大群を商店街に入れるのだろうかと、

 ピエロトは疑問に思ったのだが。


 空にはドラゴンフウセンがぷかぷか浮いているのだが、

 ウィスズン市長が小さな杖を胸の衣服から取り出すと、

 軽く振り落とす。

 すると見たこともない光景が映し出される。

 何と岩でできていた地面がぷかぷかと浮き出して、その下にある岩も浮いてくる。


 沢山の岩が結合して、巨大な橋をつくり、

 商店街とドラゴンフウセンがある場所をうまくよけて、まっすぐに勇者たちはホテルに向かうみたいだ。


 一応この世界では宿屋というのだが、

 それはビルのようにバカデカイ建物で、

 ピエロトにとってそれは宿屋ではなくて、ホテルだ。

  

 沢山の勇者ファンたちが衛兵たちにガードされながら、

 勇者に熱いエールを飛ばしている。

 ザスティンもその1人なのだが、

 いつしかウィスズン市長への怒りを覚え始める。


「あんの糞男があああ」


 とても下品な発言をしていたのであった。


 彼らが巨大宿屋または巨大ホテルに消えていなくなると、

 客たちは一時の興奮から覚めてしまった。


 そしてピエロトたちはサーカス団に戻ることとなったのだ。



 ピエロトは何か見られている意識を感じたので、

 辺りを見渡すことに、

 すると1人の男性がこちらをちらりと見ていた。

 それは光剣の傭兵団が団長ゼイビスだった。

 彼はにやりと口をへの文字にして歩き立ち去る。

 その方向には勇者たちの巨大宿屋がある訳だ。


 ピエロトは何か寒気を感じたのであった。





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