Shout it I wanna know who I am
その日は珍しく保安班長が先に現場に来ていた。
「ご要望に応じて部屋を閉めておいてやったぞ。これで満足か?」
「感謝します」皮肉は適当にあしらう。エリヤは戸を開けた。
細部は違えど似たような光景はこれで五度目だ。天井まで届く血飛沫。塗りたくられた朱。壁の文字。
『Shout it I wanna know who I am』
匂いを嗅ぎ取る。どうせこれも被害者の血だろうと思っていたが、そこには違うものが混じっていた。もう一人の血。
壁の血文字を舐めた。犯人は手に怪我をしていて――恐らく被害者と揉み合いになって――その手を刷毛替わりに壁に文字を書いたのだ。
舌先に意識を集中させ目を閉じる。死者の最後の記憶――恐怖だ――の広がる中に異物が佇むのを感じた。歓喜と興奮。匂いから察するに種族は――
「犯人は
「動機は」
「犯人は被害者を殺す事に喜びを感じていました。恐らく怨恨、それも計画的なものだと思います」
「よし分かった。帰っていいぞ」
「お先に失礼します」
車庫に戻り、置いて行ったカバンを拾う。彼はその中に薄い欠片のようなものを見つけた。摘み上げるとそこには文字が書いてあった。
――何者か知りたくば、監督官アンドレアに教えを請え。覚悟を持って。
読んだ途端にその有機的な欠片は青白く燃え上がった。
「――ッ!?」思わず取り落とす。それは地面に落ちる前に、まるで溶けるように完全に消えていた。燃え
エリヤの脳髄を
幽かに焦げ臭い匂いがエリヤを現実に引き戻した。誰かに話すべきだろうかと考えてそれを自分で否定した。最早証拠は拡散され消えつつあるこの匂いだけだ。それに班長との連絡手段は一方通行で、自分から向こうへ
「らしくないな、まったく」そこまで考えて、エリヤは独り
カバンを肩に掛け、
焦げ臭い匂いはもう消えていた。
終業の音楽は何処か物悲しげだ。まるで労働者にずっと働いて欲しいと訴えるような響きを孕んでいる。しかしエリヤはそれを解さない。入り口の
道中、配給物資を満載した
エリヤは弟の事も監督官が答えを知っているように思えて来た。
呼び鈴を鳴らすと
「何者か知るために来た」
エル=アセムは首を傾げた。「ああ、せんせーの言ってたお客さんか。入って、どうぞ」
エリヤは光の中に入っていった。
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