第5話 夕陽に復活のビューティーとラブ

 捜査本部で、ビューティーさんは呟いていた。

 例の計算だろう。

 そして、ラブさんが項垂れながら捜査本部の椅子に座ると、干からびたクラゲのようになった。

 僕は、ラブさんの背中を優しくさすりたい。

 けれども、叶わないことだと、拳を握りしめた。


「三國捜査本部長、申し訳ございませんでした」


 僕は、腰が直角になる程頭を垂れた。

 何故か必要以上に恐縮して仕方がない。


「早川巡査か。うおっほん。目の前で犯人を逃すこと――。誰しも辛い思いをするのだ。まだ幼い子であれば、ご両親のお心も尚のことお察しする」


 こんな悲しい横顔を僕は見たことがなかった。

 捜査本部のブラインドは閉め切ってある。

 所が、僅かに夕陽が射し、僕の頬を撫で、ホワイトボードへと道を作った。


「ほら、ラブの好きな激辛物揃えて置きました」

「ビューティー! 激辛旨キムチに激辛カレー味のお煎餅だわ。大好物よ」


 もさもさと食べて、何とか元気になってくれればと僕も願った。


「エネルギー充填だわ」


 やる気が漲っているのが僕にも伝わった。

 食べたら、歯磨きをしに行って、帰って来たラブさんは、もう別の人となっていた。


「行くわよ!」


 ラブさんは小さなモチーフを編み始めた。

 ささささと編み上げると、溌剌と述べた。


「自然と編んでしまったデイジーひなぎく柄の編み物は、もう直ぐ三月に咲きますね……。そうよ! 分かったわ。閃いたわ」


 ビューティーさんも疲れていたようで、激甘お菓子、ターサを食べると、元気百倍になった。

 長い計算が終わったようだ。

 警鐘を鳴らすものでなければいいが。


「11100101010……。は! 私も閃きました」


 ラブさんとビューティーさんが見つめ合っている。


「うおっほん。何でもいい。ヒントを教えてくれ」

「犯人に繋がるのなら、何でもいいんですよ」


 三國捜査本部長は、恐らく僕と同じで、第五の犠牲者が出るのを阻止したいのだろう。

 鬼瓦のような顔をしても、気持ちは優しい人なのだな。


「最初の二人、小学生AとBを誘拐したときに送り付けられた脅迫状がありますね。そこの署名、『アキラ』は、『あきら』だと思われます」


 ビューティーさんがホワイトボードに書いた。

 しかし、四角張った文字だな。


「何故、断言できるんだね?」

「テレビの報道番組で有名な佐竹彰さたけ あきらさんを尊敬しているのが、分かります」


 あの解説が上手なフリーアナウンサーか。

 僕も好きでよく観るよ。

 僕は、ラブさんの方に目をやる。

 

「根拠はなんですか?」

秋田藩あきたはんの藩主、佐竹さたけ氏からうかがえるわ」

秋田あきたとは意外です」


 ラブさんが、ホワイトボードの脅迫状に夕陽が当った所を示す。


「夕陽が教えてくれました。『ゆう』と『かい』の所を見てください。夕焼け色の文字です」


 成程、目立つようにかなりビビッドな文字だ。

 僕が頷くのを見て、ラブさんは続けた。


「スミカグループの新聞には使わない特殊なインク、紅紫色こうししょく、一般に言うマゼンタを強めに使っています。これは、この地区でも購入できる『秋田新聞あきたしんぶん』からできているんですわ」


 ラブさんの興奮を抑えるように、ビューティーさんが補う。


「学園都市は、北区と南区に駅があります。駅売店で買った新聞の文字に違いありません。私の計算にも合います」

「だから、心理学的に考えても、犯人のアキラが西区の新聞を脅迫状に使うのは憚られたわ。だから、他の区や他所の新聞を手に入れたのよ」


 ビューティーさんとラブさんが手と手を取り合う。


「ビューティー。今日の午前零時に西区に再集結よ」

「そうですね。ラブ」


「天網恢恢疎にして漏らさず! 天罰は必ず下してみせます!」


 グラマラスバディーは、腕を交差して、犯人逮捕を誓ってくれた。

 僕もこうしてはいられないな。

 がんばろう。


「待っていろ、連続誘拐犯め!」


 ◇◇◇

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