閉ざされた街 27 脱出
「ダレスさん・・・ミシャ・・・」
囚われの身となったことで自身に流れる血筋の因縁を思い出させられたアルディアだが、次いで零れた言葉は仲間達の名前だ。
ダレスと知り合ったのは一週間ほど前のことだが、アルディアは彼のことを誰よりも信頼していた。当初はユラント神が選んだ勇者としての敬意だったが、今は違う。
共に旅をし、戦ったことでわかったことがある。彼は人の身として許されないほどの大きな力を持っていながら、それを多用することはせず、人間ではどうしても抗えない〝本物の悪〟のみにその力を使うと誓っているのだ。
名の無い傭兵として生きているのも、彼の力を悪用しようとする者達から逃れるためだろう。
おとぎ話の英雄は白馬に跨り、煌びやかな武具でその身を着飾っているが、真の英雄は自身の存在が世界の脅威とならないよう敢えて身を潜めているのである。
それにダレスは自分を戦友として認めてくれた。それだけでも彼はアルディアにとって特別な存在だった。
何しろ彼女は同僚であるユラント教団の神官戦士達にも『アルディア殿が優秀なのは認めますが・・・同じ部隊に配属されるのは・・・彼女は後方支援で頑張って欲しいです』と言われていたのである。初めて得た真の戦友だった。
もちろん、妹分のミシャも理解者の一人である。彼女は〝白百合亭〟の生存者を救うためとはいえ、単独行動を起こして攫われた自分を心配して必至になって探そうとしているだろう。
ダレスが一緒なので無理はさせないと思われたが、ミシャから姉のように慕われているだけに心が痛んだ。
「・・・二人を待っている余裕はない・・・そう、私も行動に移さないと!」
一転して、アルディアは自分に言い聞かせるように決意を呟くと、部屋を出るために黒檀で出来た扉のノブに手を掛ける。
当然ながら外側から鍵が掛けられており扉はビクとも動かない。王族としての待遇は得ても囚われ人であることに変わりないのだ。
「仕方ないわ・・・とあぁぁ!」
アルディアは気合の掛け声とともに全力で扉に前蹴りを放つ。如何に丈夫な黒檀でも数カ所の蝶番で固定されているだけである。彼女の強烈な蹴りを受けると激しい音を響かせながら壁から吹き飛んだ。
「きしゃぁぁぁ!」
脱出路を確保し外に出たアルディアだが、それに満足することなく、いつもの奇声を上げながら外にいた見張りと思われる怪物に殴り掛かる。
不意を突かれた敵は彼女の強烈なストレートパンチを受けると弾かれるように廊下に崩れ落ちる。ほぼ即死だった。
「むう・・・」
見張りを素早く倒したアルディアは左右に繋がる廊下の先を順に見つめ、一瞬だけどちらに進むべきか
だが、自らが吹き飛ばした扉の下から怪物の一体が這い出そうしているのを発見すると、それを踏みつけるために左側に向う。
「ぎゃ!!」
アルディアに扉越しに踏まれた憐れな怪物は悲鳴を上げる。もちろん彼女にそれを聞く余裕はない。離宮を脱出するために走り出していた。
いつもとは勝手の違う服装に戸惑いながらもアルディアは豪奢に飾られた廊下を突き進む。
毛足の長い絨毯が敷かれているので裸足でも問題ないが、鎖帷子とその下に着る胴着で抑えていた胸の膨らみが走る度に上下に揺れて邪魔になって仕方がない。
自分の身体の一部なので文句を言うつもりはないが、豊満な胸が邪魔をして満足に戦えないのは、彼女にとって囚われの身でいることよりも苦痛だった。
そのためアルディアはまずは自分の装備を取り返すか、別の武具を手に入れることを念頭に入れていた。ここが離宮なら護衛や衛兵の詰所が随所にあるはずなのだ。
「あそこかしら・・・」
幾つかの分岐点を直感で進んだアルディアは、やがてそれらしい部屋を見つける。その部屋は両扉になっており、材質も黒檀に加えて要所を真鍮の板で補強している。
これほど頑強に護られた部屋ならば、武具の一つくらいはあるだろうと思えたのである。
「たりゃあぁぁぁ!」
アルディアは雄叫びとともに速度を緩めることなく、扉に向って飛び蹴りを放つ。彼女の筋力と体重、そして加速度によって重厚な扉は、いとも簡単に内側へ倒壊した。
そのままアルディアは受身をとって衝撃を吸収すると、目的の武具を得るために素早く立ち上がる。流石に蹴りを放った足裏を含めて身体のあちこちが痛いが今は無視した。まずは武器だった。
だが、アルディアの瞳に真っ先に映ったのは部屋、というよりは小型の広間の奥に置かれた王座に座る一人の若い男だ。
彼はやや痩せ型で顔色は悪いものの整った顔をしている。薄い金髪と青い瞳と鼻筋は近視感のある形、鏡で見る自分の顔によく似ていた。
「・・・あ、あなたは?!」
瞬時に全てを悟りながらもアルディアは
「そっちから会いに来ているのは知っていたが、随分派手な登場だね。生き別れの兄弟がこんなお転婆だったとは思わなかったよ! 妹君、いや姉上かな?」
男は冷めた笑みを浮かべながらアルディアの問いに答えるのだった。
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