超能力旅人ユウ 七つ目の大陸に最も近い旅人

オロボ46

第一章

第一話「誕生日プレゼント」

 今は覚えていない、遠い記憶の中。


 嵐の中、自分は大人の人と手を繋いでいた。


『頑張って、もう少しよ』


 どこからか、女性の声が響いた。手を繋いでいる大人は自分の方に真っ暗な顔を見せる。あまり覚えてなかった。


ッ!


 自分は何かにつまずいた。膝を見ると、擦りむいて血が出ている。

『大丈夫? お母さんが治してあげる』

そう頭に響くと、大人は傷口に手を近づけた。


 ......


 血が出ていた傷口が、塞がった。

『これでもう大丈夫。さ、行きましょ』

大人は再び歩きだした。

 自分はどこへ向かっているのかも解らずに大人の手を握ったまま歩いていた。




 建物が見えてきた。建物の前に大人が二人が立っている。2人とも男性だ。

 自分の横で手を繋いでいる大人とは違って、その二人は顔が見えていた。きっとよく見る顔だったからだと思う。

 一緒に手を繋いできた大人と共にその大人たちに近づいて行く。

 意味はわからなかった。


 3人が違いに会話しあう。

 しばらくすると、女性の大人がこちらの顔を見た。

『聞いてユウ、お母さん、必ず戻って来るから、この小父さん達と一緒にいるのよ』

再び女性の声が響くと、手を繋いでいた大人は手を離し、去っていった。

 自分はその大人を追いかけようとしたが、二人の大人に捕まれた。


 手を伸ばしても、去って行く大人はこっちを見てくれなかった。




 目が覚めた。

 ベットから体を起こし、周りを見渡す。いつも通りの自分の部屋だ。


 部屋の扉が開き、白衣を着た男の人......博士の助手が入ってきた。

「おはよう、ユウ。今日はお引っ越しだね。荷物はまとめたかい?」

自分は側にあるハンドバッグを指さした。小説の表紙が少しはみ出しているバック。

「よし、それじゃあ早く出発しようか。博士も待っているよ」

ハンドバックを持って、自分は助手の後を追いかけた。


 部屋を出るとき、助手はこちらを向いて小さな声で言った。

「十五歳の誕生日プレゼントを用意したんだ。今日の夜、こっそり渡すよ」




 トラックの荷台の中で、自分は座り込んでいた。

 窓と呼ばれるものはなかった。もっとも、自分は窓という物を見たことがない。

「そういえば、あいつは今日で十五歳だったようだな」

トラックの運転席から、声が聞こえた。

「あ、博士......覚えていたんですか?」

「ああ、お前の買い出しが最近長いからな」

「......」

「それで、その誕生日プレゼントはどうせ冒険モノの小説だろう? もっと女の子らしいもの与えればいいだろう」

「いや、彼女は女の子らしいものあまり気に入りませんよ」

「とにかく、あいつは実験体だ。そんなつまらん感情はなるべく持たせんように、お誕生日会も今日までにしておけ」

「......」

助手は何も言い返せずに黙りこんだ。


パンッ!!


 突然、大きな音が響き、トラックが急に揺れだした。

 自分は何かにしがみつこうとしたが、その前に揺れで頭を打ってしまい、気を失った。




 夢の中で、自分の目の前に巨大な怪物がいた。その怪物は大蛇のような姿をしているものの、目のようなものは見当たらなかった。

 大蛇の怪物は自分の目の前まで来ていて、唾液のようなものを落としながら大きな口を開けている。

 自分は心を落ち着かせ、目の前まで来ている大蛇の怪物を睨んだ。


ギャビイエエエエエエ!!!


 すると、大蛇の怪物の体が急に燃えだして、やがてぐったりと倒れ、びくとも動かなくなった。

 そう思った瞬間、自分の頭に痛みが走った。


「ユウ!!」


 隣の部屋から助手が駆けつけてくる。自分は疲労でその場に座り込んだ。

「ユウ!! ユウ!!」

助手は実験台である自分を揺さぶっている。その声を聞いた自分はゆっくりと体を震わせながら立ち上がった。

「よかった......ユウ......ユウ......」

自分を抱きしめた助手は、泣いていた。


 また昔の事を思い出したみたいだ。

 あの時は確か......7歳ぐらいだっただろうか。


 助手の声を聞いていると、自分の名前を繰り返してみたくなった。




 自分の名前はユウ。

 一人称は“自分”。なぜ私や僕にならなかったのかは、よく覚えていない。

 ただ、幼いころから呼んでいる冒険小説の影響で、見たことや聞いたことをつい頭の中で文章にしてしまう癖がある。恐らく一人称もその影響を受けている。


 自分自信もよくわかっていないが、他人にはない特別な力を持っているらしい。

 声は出ないが、自分の伝えたいことを他人に伝えることができる。


 そして、生き物を内部から燃やすことも......




「ユウ、ユウ、大丈夫かい?」


 誰かに揺さぶられて自分は目覚めた。目の前にいたのは助手だった。

 確か、自分は揺れで荷台のどこかに頭をぶつけたんだった。

「よかった......実は、トラックのタイヤがパンクしたんだ。今、博士が直しているけど......」


グチュウ


 外から、異質な音が聞こえた。

「......ちょっと待ってて、外の様子を見てくる」

そう言って、助手はトラックの荷台から降りた。

 自分は助手に待つようにと言われたにも関わらず、外の様子が見たくて荷台の扉を少し開けた。




 その時、銃声が聞こえた。


 荷台の扉の隙間からは、博士が倒れているのが見えた。

 少し開けると、それは上半身だけだとわかった。

「ぐあああああ!!」

助手の叫び声が聞こえた。


 思わず荷台から飛び出して見たものは、助手が腹に何かを突き刺されている光景だった。突き刺している何かは、サソリのような怪物の尻尾。

 サソリの怪物は助手の体をその鋭いハサミで切ろうとしている。


 自分は研究所にいた時と同様にとっさに怪物を睨んだ。そして、サソリの怪物の体を急激に加熱させて炎上させた。

 やがて、助手を放り投げると、その場で暴れ回り、そのまま動かなくなった。あの時と違って、この程度で頭痛は起きなかった。




 自分は助手に近づいて腹に空いた大きな穴に手を近づけた。すると、助手の傷が少しずつ治っていく。

 あともう少し......と思った時、ひどい頭痛が自分を襲った。頭痛が起きないと油断したのか、いつもよりもひどい頭痛だった。

「無理......しないで......どうせ......毒で死ぬから......」

助手は息を切らして言った。


「ユウ......最後に......一つ......聞いてくれ......"カゴシマ"という街に......僕の......知り合いがいる......」

そう言いながら助手は、青いリュックサックを差し出した。

「これは......君の......誕生日プレゼント......その中の......写真が......僕の......知り合いだ......その人の......ところに......い......くんだ......」

助手の声は、だんだんか細くなっていく。


 


「ハッピィ......バァ......ス......デェイ......ユ......ウ......」




 助手は動かなくなった。自分が助手の体を揺らしても、起きなかった。周りは森に囲まれていて、どっちに進めばいいのか解らない。


 自分はこれからどうすればいいのか解らず、ただ助手の体を揺らし続けた。

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