第456話 クラスクの選択
「…アーリ様、ひとつ確認なんでふが、それが防御術的な何かであったと仮定してこれまで〈
「あ…そーですよ! 解呪ですよ解呪! 呪文効果なら解呪できるじゃないですか!」
「それがニャ-…火口にかけられた防御術らしき効果を解こうと火口付近で魔導師が解呪系統の呪文を使ったら、どうにも当人自身に解呪がかかったみたいでニャ。本人がそれに気づかずしっかり防御術があるつもりで竜に挑んでそのまま焼き殺されたニャ」
「うっわ……」
「ひっでーなそりゃ!」
「え…? 呪文を解除する呪文を…跳ね返す? ええ…!?」
エモニモとゲルダが同時に声を上げ、ミエが軽く混乱する。
「おそらく〈
「わかるんですか!?」
ミエの叫びにネッカがこくりと頷く。
「おそらくでふが。外部から火山に対してかけられた解呪などの呪文効果を反射する呪文として〈
「ええー…?」
呪文を反射する呪文。
魔術に対抗できるのは魔術だけなのだから、言われてみればあってもおかしくはない。
おかしくはないのだが相手側が使ってくるとなんとも厄介極まりないではないか。
「ただ〈
「うわー、もうなんでもありですね魔導術!」
ミエが半分お手上げといった風でなかば焼け鉢に叫ぶ。
「ただもしネッカの推測が当たっているとすると…これはその竜の魔導術ではない気がしまふ」
「はえ…?」
「どういうことニャ」
ネッカの言葉に、今度はアーリが興味深そうに反応した。
「『
「あれ…? そういえばキャスさんの使う精霊魔術って…」
ミエに見つめられたキャスが、皆からの視線を集めながら小さく頷いた。
「ああ。私は騎士だからな。通常は魔術行使能力を持たぬ。私が精霊魔術を使えるのがネッカの言う通りエルフの血が混じっているからだ」
「あー…なるほど…てことはそれが竜の血の場合魔導術を覚えるみたいな…?」
「はいでふミエ様。そして血で覚える魔術には数に限りがありまふ。それもキャス様を見ればわかると思いまふ」
ぱちくり、と目をしばたたかせたミエがキャスを見つめ、キャスが少し困ったように肩をすくめた。
「それも本当だ。私は特にエルフの血が半分しか流れてないのでな。習得できる呪文もごく少数になる」
「え…ってことは…竜が覚える魔導術もそんなに数が多くない…?」
「はいでふ。血脈で魔術に覚醒する場合、いちいち研究や開発をしなくてもこの世界そのものから呪文を習得する事が可能でふから自分の願望に近い呪文が手に入るメリットがありまふ。一方で習得できる呪文は修行で増やすことはできず加齢によって覚えるのみ。さらに知識として魔導術を覚える魔導師達のように魔導書を持たないでふから、呪文のレパートリーを増やすこともできないでふね」
「へー、へー、便利一辺倒かと思ったらそうでもないんですね!」
「ニャるほど、それは為にニャる話ニャ」
ミエとアーリが興味津々で頷く傍らで、しばし熟考していたシャミルがはっと眉を上げた。
「そうか…呪文がピンポイントすぎる…! そう言いたいのじゃな!」
「はいでふシャミル様。流石御慧眼でふ」
「ふぇ…? どういうことです?」
互いに納得した風のネッカとシャミルの会話に、けれどいまいち得心のゆかぬミエが疑問の声を上げる。
「ミエ、己の立場で考えてみよ。強力な魔導術を覚えられるが数に限りはある。となると覚えたい呪文はどんな呪文じゃ」
「ふぇ? ええっと…そうですね、なるべく用途が多くて、汎用性のある……」
とそこまで言い差して、ミエもようやくそこに思い至った。
「あそっか、拠点防衛の呪文ばっかりじゃ巣の外に出た時全然役に立たないから、竜としてはあまり覚えたくない…?」
「そうでふね。〈
「ええと、ってことは火口を護っている防御術? は魔導術だけどその竜が覚えてる呪文じゃない…?」
「考えられる可能性はふたつじゃな」
「ふたつかニャ。ひとつだと思ってたにゃ」
シャミルの言葉にアーリが意外そうな声を出す。
「ほう。ではアーリ、お主の思いついた一つとはなんじゃ」
「聞くも何もさっき言った気がするニャ。竜の巣穴に集められてる財宝の中から国宝クラスの魔具や
「確かにそれもあり得るの」
「他に何があるニャ」
アーリの問いかけに、シャミルは小さく鼻息を吹いて円卓を指でトントンと叩く。
「お主がゆうておったんじゃろうが。その火山は地下の
「ニャ……!」
シャミルの言葉にハッと何かに気づくアーリ。
「そうであらば自らの街の命綱とも言えるその動力源を守らんとその街の元住人どもが注力しておってもおかしくはなかろう」
「ニャるほど…理屈だニャ」
「ナルホド。それならわむつおいむ…? ダかを苦労シテ突破する意味が出テテきタわけダ」
「そうじゃな」
「あん…?」
二人の会話に割って入ったクラスクの台詞に、今後はゲルダが納得いかず首を捻る。
「巣穴に貯めこまれた厄介な魔具の力だろーとその
「違ウ」
「え? マジで?」
ゲルダの疑義の声にクラスクがこくりと頷く。
「そのわむつおいむ…」
「
「それデシタ。ソイツがかつての住人がかけた護りの魔術デ、それをその大トカゲが利用シテルダけなら、わむつおいむから奴の巣穴に突っ込ム分にハその影響を受けずに済ム理屈ダ」
「あー…そっか、てめーらが使ってる通路にわざわざ自分らを傷つけるような設定しねえってことか!」
「それダ」
そこまで言い置いて、クラスクは腕組みをしてしばし考え込む。
オーク達を率いて軍隊で戦うか。
それとも少数精鋭で挑むか。
どちらにもメリットとデメリットがある。
軍隊を率いる場合は有効打は与えやすいが被害が大きくなりがちで、また手負いにはしやすくともとどめを刺せず逃げられるリスクが高い。
パーティーで挑む場合人数以上の被害は出なく、また相手の巣穴で戦うため財宝を本能的に求める竜が逃走を選択しにくいという圧倒的メリットがある一方、話を聞く限り辿り着くのがとにかく大変だ。
また人数が少ない分戦闘時の死亡率も高いだろう。
それらを考えあわせ、下さなければならない。
自分たちが一体どうやって彼に挑むべきか。
「……決めタ」
クラスクは短く、そう呟く。
そしてばんと円卓を叩き、一同にこの街の命運を決定づける宣言をした。
「軍隊トパーティー、俺が選ぶのハ……」
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