第240話 スキル≪魔具作成≫
スキルには一部のクラスのみが修得できるものがある。
『特殊スキル』と呼ばれる
一般スキルではないためミエの≪応援(旦那様/クラスク)≫による≪疑似スキル≫では再現できない。
かつてクラスクとキャスが戦った二人組の
そしてネッカが修得しているスキル…≪魔具作成≫は、魔導師のみが修得可能な特殊スキルである。
修得すると初期レベルで≪魔具作成(巻物)≫を覚え、魔法のスクロールを書き記すことができるようになり、その後スキルが特定レベルに達するごとに追加で造れるアイテムの種類が増えてゆく。
例えば≪魔具作成(ポーション)≫や≪魔具作成(指輪・腕輪・脚輪)≫、≪魔具作成(杖)≫などである。
≪魔具作成(武器・防具)≫も、そんなカテゴリの一つであり、この特技を習得した魔導師は武器や鎧に魔力を付与して魔法の武器や魔法の鎧を造り出すことができるのだ。
戦士たちが垂涎する非常に強力な特技である一方…魔導師たちが≪魔具作成≫スキルに於いて武器防具作成のカテゴリを選択するケースは非常に少ない。
理由は単純で、魔導師達自身のメリットにならないからである。
例えば≪魔具作成(手袋・手甲・靴)≫があれば『瞬足の靴』などが作成可能であり、迅速な調査や旅程の短縮に有用となる。
≪魔具作成(衣服・ローブ・マント)≫があれば『姿隠しのマント』などを作成することができ、人目につかず魔術の触媒などを採集する際に役に立つだろう。
そして≪魔具作成(杖)≫などがあれば一振りするだけで魔法の矢が飛ぶような杖を造ることも可能で、その有用性は言うまでもない。
だが…≪魔具作成(武器・防具)≫となるとそうはゆかぬ。
魔導師の呪文には正確に唱えるために細かな身振り手振り…いわゆる『動作要素』が必要なものが多く、重い鎧を着ていると動きが阻害されてまともに呪文が唱えられない。
ゆえに魔導師は基本鎧を着ることは厳禁で、ゆえにせっかく魔法の防具を作成しても身につけることができないのである。
魔法の武器であれば…例えば術の詠唱補助に使う杖や魔導師でも持てる軽い短剣などを魔法の武器にすることは可能だけれど、魔導師はそもそも魔導を極めるため研究一辺倒で肉体的には脆弱な者が多いし、先述の通り呪文には動作要素や詠唱要素が必要なものが多く、たとえば接近されて組み伏せられたり口を抑えられたりすると魔術が封じられてしまう。
そんな彼らが武器を使わねばならぬほど接敵された時点でほぼ詰みと考えていいだろう。
従って魔法の武器を打ち鍛えたとてほぼ役に立たぬ。
結果として…多くの≪魔具作成≫スキルの中であえて≪武器防具作成≫を選択する魔導師は殆どいない。
なにせ≪魔具作成≫スキルを最大レベルまで上げても全てのアイテム作成ができるようになるわけではないのだ。
選択肢が限られているなら自分の役に立たない選択肢から順に除外していくのは当然の帰結と言えるだろう。
もっとも…例外的にあえて≪武器防具作成≫を選択する魔導師も少数ながら存在している。
冒険者のパーティに参加している魔導師などがそれだ。
彼らは様々なクエストをこなす過程で手強い怪物などと戦う必要がある。
仲間の戦士や盗賊などが強力な魔法の武器や防具を身につけていればそれだけ彼らの戦いが有利となり、結果魔導師自身が接敵され被弾し傷つくリスクが減らせる。
武器や防具それ自体が魔導師に直接メリットをもたらしてくれるわけではないが、長い目で見れば確実に魔導師の役に立ってくれているわけだ。
「…しっかし前に聞いた話だとネッカは冒険者もやってたはずだニャ? 魔具のそれも武器防具を作れる魔導師ニャんて絶対重宝されると思うんニャけど…」
だが実際には彼女は冒険者仲間から干され追い出された。
現代世界でラノベなどを読んでいる層がこちらに来ていたなら「追放物だ!」「戻ってくれくれと言われてももう遅いって奴だ!」などと盛り上がるのかもしれないが、残念ながらミエはそうした知識にとんと疎く、単にネッカの話を聞いて同情しただけだった。
「ええっと…私みたいな冒険者向きじゃない呪文を研究してる魔導師を使ってくれる冒険者がほとんどいなくってでふね。やっと巡り合えたんでふけどその人たちはだいぶその…お金に困ってて、でふね。それでお金のために後から後から仕事を受けるものだから街で魔具を作っている余裕も予算も全然なくって…」
「あー…それは完全に宝の持ち腐れニャー」
≪魔具作成≫スキルがあれば魔導学院などで魔具を購入するよりもかなり安く魔具を造ることができる。
…が、それでも魔法の品である。決して安くはない。
また作成する際に部屋に籠って魔術的な儀式や作業を行わなければならず、どんな簡易な魔具であろうと1日~2日の作成期間は必要だし、長いものになると数カ月は工房にこもりっきりなる事すらある。
せっかちで貧乏、というのは魔具作成型の魔導師にとって凡そ最悪の相性と言っていいのだ。
「なるほど。確かに魔法の武器となるとかなり魅力的だが…」
ふむ、と顎に手を当てて考え込むキャス。
「そんなにいいものナノカ?」
未だよくわかっていないクラスク。
「そうだな…以前ゴブリン軍団と戦争をした時、向こうに
「イタ。なかなかの歯ごタえダッタ」
キャスの言葉に大仰に頷く。
「連中が使っていた〈
「アッタ! スゴイ堅かっタ!」
「魔法の武器ならあれを無視できる。彼女はどうやら魔導の業を駆使してそれが作れるらしい」
「本当カ!? ネッカスゴイナ!?」
うおおおおおおお!? と興奮を隠しきれないクラスク。
「あ、いえ、別にそこまですごいってほどでもないでふが…」
もじもじ謙遜するネッカを前に、悩み深い顔で沈思するキャス。
「いや正直有難い。アーリの言う通り今後を考えるなら魔法の武器は非常に有用だ。だが…」
キャスは自らの腰に挿した愛用の剣を軽く撫でる。
「私の剣は母の形見だ。これを置くのはやはり少し抵抗があるな…」
「俺モ俺モ。俺ノ斧モ親父の奴!」
「あ、その点でしたら、そ、その…魔導師は魔法の武器を一から造るんじゃあなくって既にある武器を鍛えて魔法を付与するものなので…」
「本当か!?」
「俺ノ斧モスゴクナルノカ!」
キャスとクラスクだけでなく、いつの間にかゲルダとエモニモも食い入るように聞いている。
戦士や騎士にとって魔法の武器というのはそれだけ魅力的なのだ。
「ただ魔法の武器化するためには条件がありまふ。その、えっと、すごい質の良い武器でないと…その武器が魔法に耐えられないんでふ」
「質か…エルフ造りの剣だから悪くはないはずだが…」
キャスが己の細剣を抜き放ち、柄を先にネッカに渡す。
「ふむふむ…問題ないでふね。とても上質な武器のようでふ」
「それはよかった」
軽い口調で呟きつつ、だが内心ほっとしているキャス。
愛用している母の形見がなまくらだなどと言われたらさぞショックを受けたことだろう。
「この武器を魔法の武器にしてくれるというのならとてもありがたいが…本当にそんなことができるものなのか」
「はいでふ。この部屋に揃ってる器具で大体の事は賄えそうでふので…あとは
「それは向こうの村から今日中に取ってくるニャ!!」
アーリが今にも駆けだしそうな勢いで請け負った。
「ただ…そうでふね」
ネッカはキャスの剣を机の上に置き、杖を軽く振ると呪文の詠唱を始めた。
「
そしてそのまま剣を手にして角度を変えてつぶさに観察した後…何かに一人納得してうんうんと頷く。
そして…その場にいる誰一人理解できない質問を、した。
「それで…『曰く』はどうしまふか?」
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