2020年1月31日

 仕事から帰ってきて魚に餌をやろうと水槽を覗くとダザイが浮いていた。姿が見えないので喰われたと思っていたのだが、何かの陰にでもなっていたのだろう。どちらにせよ死んでしまったのだ。ところが、息で水草の上まで吹き飛ばすとダザイが動いた。死んだと思っていたダザイは生きていた。陸に生活する虫が半日以上も水に浸かりながらも溺れずに生き延びているのだ。私は何か教訓めいたものを感じて考えをまとめようと思ったが、ダザイが生きていた事がとても嬉しく、そんな瑣末さまつな事などどうでもよくなってしまった。


 パソコンでの作業が一段落して水槽を見ると、さっきまで動いていたダザイが死んでいた。顔側の肢体半分を水に突っ込み、内側のはねがベロンと露出している。ピンセットや水面に浮く水草で突いても反応はない。下手に名前をつけたせいで愛着が湧いてしまっており、正直、私はダザイが死んでしまった事にペットの熱帯魚が死んだ時と同等のショックを受けた。助けても助けても水に戻りたがるからダザイと名付けたのに、まるでその名を与えられた事でこうなる運命を決定づけられてしまったかのような気にさえなってくる。ダザイはもういない。


 再びパソコンに向かっていた私は目の疲れを感じて水槽に目をやった。もうダザイは死んでしまったというのに、私は未練がましくその遺骸を水草の上に横たえて水面に放置していた。私は水草から落ちて水面に浮くダザイを見て声を上げそうになった。目の錯覚ではなくダザイが動いていた。はじめは水流やスネイルでも貼りついているのかと思ったが違った。私はダザイが生きていて本当に嬉しく思う。

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