第362話

Nao side.03



水希は小さい頃から人たらしだ。これは悪い意味ではない。人懐っこく、誰からも好かれるタイプで、まぁ…タラシではある。

小学生の頃、水希の周りは女の子の友達に囲まれていた。そして、その友達の親からも人気だった。家に遊びに行くと、必ずお菓子を持ち帰り、道を歩くと声を掛けられる。


特にお婆ちゃんに人気で、お菓子をあげると喜ぶ姿が好評だった(これは今も変わらないけど)。だから、私はいつ水希がお菓子に釣られて人攫いにあうか不安だった。

そんな水希は、晴菜さんの影響で飴玉をあげる側になった。私もよく疲れた時に食べてねと苺練乳の飴玉を晴菜さんに貰う。


水希は天性のタラシなのかもしれない。よく言えばちゃんと周りを見ていて、気を使えるタイプであり、水希なりの優しさだ。

きっと、晴菜さんに飴玉を貰ったとき嬉しかったのだろう。確か、水希が苺練乳の飴玉をよく食べるようになったのは芽衣ちゃんと喧嘩をしていた時だ。あの時の水希は芽衣ちゃんと別れ絶望の淵に追いやられていた。


きっと、晴菜さんの優しさに触れ助けられたから同じように水希もしているのかもしれない。うーん、タラシだけどいい奴の典型ね。

人は弱っている時に水希みたいな優しさに触れると心が動いてしまう。

これを私はトレンドドラマ効果と名前を付けている。よく、人気の恋愛ドラマはこのパターンの展開が異常に多いからだ。


きっと、未来ちゃんは水希といる時は恋愛ドラマのヒロイン的な感覚にいるのかもしれない。水希は優しい王子様(白王子)で、田村さんはツンデレな王子様(黒王子)。

大抵、この手のドラマはツンデレ王子とヒロインが結ばれるから問題はない。そう!なぜか、優しい白王子は必ず振られてしまう。


ふふふ、面白い。まぁ、水希には芽衣ちゃんがいるから白王子様的な役割になるけどね。

甘酸っぱい苺を食べ、甘い生クリームを食べ、私は微笑む。これぞツンデレよねと。



「菜穂、いいなー、私もパフェ食べたい」


「恭子の好きな抹茶パフェあるわよ」


「本当?やったー、頼も〜と」



田村さんは水希のタラシぶりに嘆いている。あれは天性のものだから諦めるしかないのに無理みたいだ。だから仕方なく、また助言をする。本当、水希の姉として大変よ。



「田村さん、水希のタラシぶりに悩むより水希のお株である優しさをもっと身につけなさい。見てたら分かるでしょ、基本優しい人に人間は惹かれるの。水希ってタラシだけど、芽衣ちゃんのことを誰よりも大事にしてるわ。デートの日に遅刻なんて絶対にしないし、必ず30分前には待ち合わせ場所に行ってる。それに、プレゼントは欠かさないし自分の気持ちを素直に伝えてる。態度だって見てて分かるでしょ、呆れるほど芽衣ちゃんを大事にして愛情を送っているわよ」


「はい…」


「田村さん…頑張ろう。私も頑張るから」


「うん…朝倉さん、一緒に頑張ろう」


「菜穂。水希ってさ、小さい頃からタラシなの?」


「生まれた時からタラシよ」


「やっぱり…」



冗談で言ったつもりが、みんな納得するから驚いた。まさか本気にするなんて思わないのに…みんな、冷静な頭をしてなさすぎる。

私は空になった飲み物を注ぎに行く。気分転換にコーヒーが飲みたくなってきた。ついでに、みんなの分の飲み物を聞き、恭子と一緒にドリンクコーナーまで行く。みんな、ため息を吐くから私まで気が重くなる。



「菜穂は小さい頃から大変なんだね〜」


「そうよ、水希のせいで苦労が絶えないわ」


「菜穂がしっかりしてる理由が分かるよ」



私の苦労を分かってもらえるだけで嬉しい。水希は私のこと女王様って言うけど、水希に苦労を掛けられている対価だから当然だ。



「さぁ、次はどんな話が出てくるかな〜」


「姉として気が滅入るわ」


「あっ、抹茶パフェが来てる。早く戻ろー」



お盆に三つのコップを乗せ、テーブルまで運ぶ。朝倉さんと田村さんはメロンソーダで松村さんは烏龍茶。1人だけ渋いチョイス。

なんだか、松村さんの話が楽しみになってきた。きっと面白い話になるはず。



「高瀬先輩ありがとうございます!」


「はい、みんなどうぞ」



温かいブラックコーヒーを手に取り、私は一口飲む。さっきまで甘くなっていた口の中がコーヒーの苦味でさっぱりする。

私はジッと松村さんを見る。目が合った松村さんは一度お辞儀をし、話し始めた。



「えー、私の恋人は同じ一年生の佐々木真里なのですが、この前のモテ女コンテストでグランプリを取りました。真里は高瀬…えっと水希先輩と同様モテます。これは中学時代からなのでヤキモチは焼きますが気にしません。私は水希先輩にお姉ちゃんのことや真里のことで何度も助けられました。あんまり言葉にしたくはないんですが、真里のファーストキスは私ではありません。真里の初めての恋人は私ですが真里の幼馴染に奪われました」


「えー、、可哀想」


「こら、恭子。シー」


「大丈夫です。やっと、私も真里とキスをしましたからモヤモヤの決着はつきました。問題は真里が水希先輩に依存していることです。キスの件を水希先輩に相談して以来、真里は何かあることに水希先輩に相談します。別にこれは真里が尊敬している先輩だからと思い問題はないです。ただ、尊敬の気持ちを超えているように感じるんです。真里は文化祭で張り出されていた水希先輩の写真をこっそり買い、生徒手帳にお守りのように入れています」


「えー、気持ち悪い…」


「こら、恭子。だから、最後までシー」



話の間に恭子が呟くからその都度、松村さんの話が止まってしまう。恭子の気持ちは分かるけど、これでは話が進まない。

だけど、他の2人も呆気に取られている。確かに水希の写真を生徒手帳に入れるなんて…とりあえず話を最後まで聞かなくっちゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る