第273話
今日は2年生になって初めての試験の日で、朝から気合が十分に入っている。
晴菜さんを家まで送ったとき大好きな苺練乳の飴玉を貰った。朝、飴玉を舐めながら勉強しパワーが漲っている。
「はぁ、、、、無理。中間テスト捨てた」
「ごんちゃん、まだ始まってもないよ」
「無理…勉強に集中出来なかった。水希のバカー」
「何でバカって言われないといけないの!」
失恋から立ち直れないごんちゃんが項垂れる。確かに恋に敗れた後の試験は私も撃沈するだろう。気持ちは分かるけど私に対しての八つ当たりが酷い。
「ごんちゃん、頑張ろうよ」
「芽衣…ありがとう」
「ごんちゃん、ファイト」
「水希、うるさい」
もう、ごんちゃんに絡むのやめる。私は最後の勉強をすると決めた。絶対に良い点を取り、生徒会長として威厳をつけないと。
それに晴菜さんに教えてもらっているのに悪い点数なんて絶対に取れない。
「水希、気合入ってるね」
「うん、生徒会長として頑張らないと」
「頑張ってる水希、カッコいいよ」
芽衣に褒められた。目標は全教科80点以上だけど高すぎるだろうか…。でも、目標は高い方がいい。目指す大学が最高に高い所にある高みなのだから頑張らないと。
きっとやれる。ここで悪い点数を取っているようじゃ東條大学にはいけない。
こんなにも試験でサラサラと解けたのは初めてだ。時間を残しながら全問解き、もう一度見直す。ミスをしたら意味がない。何問か不安な箇所があるけど、それでも達成感が凄い。
ちゃんと勉強したら成果は出る。晴菜さんに前、言われた言葉がある。
「勉強ってね、達成感を感じれたら努力が報われている証拠なんだよ」って。
今、ありありと感じる達成感。きっと晴菜さんに出会わなければ一生味わうことのないものだっただろう。
こんなにも試験の結果を知りたいと思えたことは初めてで、ワクワクするし楽しい!
4日間の試験を終えた私は達成感と脱力感でボーッとする。今日まで部活は休みで、試験が終わったから帰っていいのに帰りたくなくて芽衣とこっそり生徒会室に行く。
頑張るって楽しい。苦しいけど楽しい。芽衣と余韻を楽しみ、ひとときの休憩をした。
「水希、今回のテスト手応えありそうだね」
「うん、初めての経験だよ」
「頑張ったね、偉いよ」
「やっと、芽衣に甘えられる」
あっ、芽衣からの突然のご褒美が私を蕩けさせる。久しぶりの芽衣の甘い唇は私を狼にさせるから困る。
「水希…家に来る?」
「行く」
試験は午前中で終わり、お腹は空いているけどもっと空腹なのは狼としての欲望だ。
ずっと我慢をしていた。こんなに可愛い芽衣に「家に来る?」と言われて行かないはずがない。外が台風でも絶対に行く。
芽衣はいつのまにか誘い上手になり、私を何度も夢中にさせる。久しぶりに味わえた芽衣の肌の感触は私の体も蕩けさせた。
こんなに幸せでいいのかな?今も不安になるよ。芽衣の恋人が私でいいのかなって。
だけど、この温もりを絶対に離したくない。
◇
もうすぐ5月が終わる。春が終わる。色ボケし、晴菜さんの気持ちを何も分かってない私は初めて晴菜さんに激怒される。
私がいかに最低で、勉強しない人間か分かった。学問の勉強をあんなに頑張ったのに、恋愛の勉強は学ばず、恋愛テストがあったらほぼ0点を取るだろう。
恋は色んな所で発生する。生まれてしまう。せっかく前を向き、頑張って後片付けをしていた晴菜さんを私は何度も苦しめる。
そして、私は世界で一番悲しい言葉を言われた。苦しい…私より晴菜さんの方が苦しいと思うけど苦しいよ。
「水希ちゃんに出会わなければ良かった」
地面に落ちた指輪はプレゼントから要らないものになりゴミとなる。一番の高額のプレゼントは一瞬で価値がなくなった。
ズボンが汚れるのを分かっていながら膝をつく。項垂れながら、指輪を拾いポケットに入れた。ここでは捨てたくなかった。
誰もいない境内。ほぼ、緑の葉になった桜の木から数枚だけ花びらが散る。
足が動かない。項垂れたまま、私は泣きじゃくる。誰もいなくて良かった…こんな姿を誰にも見られたくない。心配もされたくないし、1人にして欲しい。
新品の指輪が投げ捨てられたことによって傷がつき、私の心が砕けた。
明日は目が腫れそうだ。芽衣とデートする日なのに心配されちゃうよ。
うぇ、、吐き気が止まらない。嗚咽のせいで呼吸がしずらく何度も吐きそうになる。
もう、このままここで倒れたい。力が出なくて、立ち上がることが出来ない。
何でこのタイミングで雨が降るんだよ!私の涙を誤魔化してくれるのは嬉しいけど心が冷えて風邪を引きそうだ。
一度、大風邪を引いて芽衣に心配させた。もう、同じ過ちをしたくない。
私はよろよろと立ち上がり、自転車を止めた場所まで向かった。晴菜さん、バスに乗れてたらいいな。この雨では、傘を持ってない晴菜さんが風邪を引いてしまう。
空が雲で灰色だ。さっきまで青空だったのに天気はすぐに変わる。私の心も青空から土砂降りの雨空に変わった。
ポケットに手を入れ、自転車の鍵を探す。だけど、ゴミとなった指輪にまた触れてしまい座り込んだ。自転車に乗る力がないや…。
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