第265話

今日から新生徒会が動き出す。私は生徒会長として後輩を引っ張り頑張らないといけない。

あとは、さわちんが未だに駄々をこねているから職権濫用の話を伝えるつもりだ。

きっとこれで大丈夫だろう。未来ちゃんが陸上部の見学をしている時は張り切ってるし。



「君が好き〜」



朝からごんちゃんが窓辺で楽しそうに歌っている。音程が微妙にイマイチだけど、この曲オリジナルの曲なのかな?アカペラだけど優しいメロディーが胸に染みる。



「ごんちゃん、おはよう」


「おはようー」


「歌っていた曲、新しい曲?」


「違うよ。好きなバンドの曲」



イヤホンの片方を借り、耳に挿すとごんちゃんが歌っていたフレーズが流れ、胸がギュッと熱くなり切なくもなった。

優しいメロディーと優しい歌詞と優しい歌声が凄く私の胸を鷲掴みする。今日の天気は青い空が綺麗で、ごんちゃんがこの曲を歌いたくなるのが分かるよ。


窓から入ってくる爽やかな風が心地よくて私もつい「君が好き」ってフレーズを口ずさむ。さっき来た芽衣が私の横にきて「おはよう」って笑顔をくれる。

新しい季節にぴったりの曲が心機一転の私の背中を後押ししてくれる。久しぶりにアニソン以外で歌いたいと思えた曲だ。



「水希・芽衣…私ね、恋をしたよー」


「えー、ごんちゃん…マジ?」


「うん、やっと素直に気持ちを認めた…ずっとさ悩んでてさ、この消えない気持ちは本気の恋ってやっと気づけた」


「相手は…他校の男子?」


「違う…女の人」


「マジ!?えっ…早川先輩?」


「違うよー、早川先輩は憧れの人だよ。バイト先の人なんだ…でも、、恋人いるから恋をしてすぐに失恋した」



ずっと黙っている芽衣が切なそうにごんちゃんを見る。私も何て声を掛けたらいいのか分からないよ。だけど、スッキリとした顔をしていて…でも、何度も「君が好き」ってフレーズを歌い涙ぐんでいる。

恋をしたと同時に失恋をして、私も胸が張り裂けそうだ。それもやっと認めた恋なのに。


上手くいく恋と上手くいかなかった恋。告白せずに失恋した人は上手くいかなかった恋に分類されるのかな?

難しいな、1パーセントの望みを掛けて告白する人もいるから一緒にしないで欲しいって怒りそうだ。それは諦めた恋だと言って。


でも、私は本人が決めた恋の終わり方ならそれでいいと思う。人それぞれだし、私もごんちゃんと同じ片思いをした時、そんな終わり方を選ぶかもしれない。

ちゃんと振られてないから好きって気持ちはなかなか消えないけど、この選択肢しか選べない人もいる。



「ごんちゃん、次はいい恋したいね」


「うん、次は両思いになってみせる。水希に負けないからな」


「今日のごんちゃん、5ミリほどカッコいいよ」


「芽衣、ありがとう〜」



好きな人と両思いになれるよう願う時、祈りに似た気持ちで天を仰ぐ。神様に祈るわけではないけど、もし声が届くならって微かな期待を込めて空を見るんだ。

恋に正直になるのは苦しい。異性との恋だったら素直に恋ができる。偏見もない世界で真っ直ぐな恋がしやすい。でも、同性に恋をしたとき正直になるのが怖い。


私がそうだった。不安で、芽衣への気持ちに葛藤して散々悩んだ。だけど、手に入れた恋は私を何十倍も幸せにしてくれた。気持ちに正直になって良かったって。

もし、実らなくても恋に正直になって思い出を楽しめたらいいな。ごんちゃんには叩かれそうだけどね、「自分だけ上手く行きやがってー」って。



「はぁ、、生徒会のメンバー。みんな恋人がいて悔しい」


「バイト先に、カッコいい男子とかいないの?」


「いるけど、好きになったのは恋人がいる女の人だったの」


「そっか。じゃ、この学校に運命の人がいるかもよ」


「誰だよー、教えてよー」



私はごんちゃんに体を揺さぶられ、芽衣が楽しそうに笑っている。きっと、大丈夫だよ。ごんちゃんのギター弾く姿はめちゃくちゃカッコいいし、明るいし何より優しいもん。

はぁ、、春の風が気持ちい。もうすぐ5月が終わり、春が終わるけどこの短い季節を感じれる一瞬が好きだ。暖かく、爽やかな風は新たな一年の背中を押してくれる。


そう言えば、芽衣と旅行に行こうって思っていてまだ実行出来てない。もっとお金を貯めて来年になる前には行きたいよ。

イギリスか…いいな。いつか私も海外に行ってみたい。世界を飛び回りたいって夢を持つ晴菜さんはカッコいい。私も晴菜さんみたいな大人になりたい。


高校2年生になり私の視野は広がり、夢を探すようになった。外の世界はきっと雄大で高校を卒業した時、大学の大きさに最初感動して、社会人になった時…もし、私も海外に行く仕事に就いたら世界の大きさに感動するだろう。

まだ、夢がない私は夢への旅をする。いつかゴールを見つけ花を咲かせたい。

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