第93話

「芽衣、ここから見ると綺麗だよ」


「水希、キツくない…?」


「キツくないよ、ほら景色を楽しもうよ」



私が芽衣にしてあげたくてしてるから気にしなくて良いんだよ。芽衣が辛いと私も辛くなる。だから、お互い助け合って行こう。

それに、こんな綺麗な景色の中で芽衣をおんぶできるなんて良い思い出だ。同じ目線の高さで素晴らしい景色を共有できる。



「結構、上まで来たねー」


「まさかこんなに登るとは思わなかったよ。ごんちゃん、もう少しで着くかな?」


「うーん。あっ、茶屋が見えた!」


「芽衣、もう少しだからね」


「うん…ありがとう」


「水希、芽衣、写真撮るからこっち見て〜」


「芽衣、私の分までピースして」


「難しいよー」


「はい、2人とも撮るよ〜」



楽しい。ちょっとしたことや、ハプニングが面白くてずっと笑ってしまう。

芽衣も笑顔だし、ごんちゃんも笑顔で楽しい青春の思い出の1ページが出来た。



「よし、あと少しだー」


「芽衣、やっと休憩できるね」


「水希、、ありがとう」



ようやく休憩場所が視界に映った。一歩一歩ゆっくり歩き登り切った後、芽衣を降ろす。

いい運動になった。修学旅行中は部活ができないから丁度良かったかもしれない。



「ごんちゃん、茶店で休憩する?」


「もちろん!」


「芽衣はここに座ってね」


「水希、ごめんね…」


「私は大丈夫だから。あっ、ごんちゃん荷物ありがとう〜」


「早く、冷たい飲み物でも頼もうよ〜」



やっと一息つけた。椅子に座りながら、注文した冷たい飲み物を飲み息を整える。

今日はもうかなり動いた気がする。ここから頂上まであとどれくらいあるのかな。



「水希、芽衣…この鳥居、入口から頂上まで4キロあって2時間掛かるって書いてある」


「ごんちゃん、マジ?」


「流石に…厳しいね。水希が芽衣をおんぶし登るのは無理だし、私も登れる自信ないよ」


「芽衣、休憩終わったら引き返そうか…」


「うん…鳥居、綺麗かったし満足だよ」



まさか、頂上に行くまで坂道が続いて2時間も掛かるなんて思わなかった。何とかなるさ精神では通じない距離だ。

流石、千本鳥居。名前は伊達じゃない。



「じゃ、早めに下に降りないと他を周る時間減っちゃうね。芽衣が落ち着いたら戻ろう」


「芽衣、帰りもおんぶするからね」


「水希、帰りは大丈夫だよ…下りだし」


「足痛くないの?」


「本当に大丈夫だから」



心配だな。芽衣は頑固だから無理してないかな。何かあったら言って欲しいけど、、よし、ホテルに着いたら足のマッサージをしよう。

芽衣が嫌がっても無理やりにでも筋肉をほぐすのが恋人の役目だ。


風が気持ちいい。下りだと軽やかな足取りで歩けるし綺麗な紅葉の景色を見る余裕が出てくる。芽衣もそこまで息が上がっていない。

伏見稲荷大社はいつか芽衣と2人で旅行に来た時にもう一度チャレンジしたいな。今度は頑張って頂上まで登って本殿まで行きお参りしたいし、頂上からの景色を見てみたい。



「芽衣、ごんちゃん、次は清水寺に行かない?」


「水希、行きたい!」


「いいね〜、私も行きたい!よし、出発ー」



京都は観光名所が多くて楽しい。全然、時間が足りないくてデザートも食べたいし、観光もしたいしあと5時間は遊べる。

あー、でも…あと1時間半しかない。集合場所まで道のりを逆算で考えないとから早めに行かないとダメだ。



「水希、芽衣、このバスに乗ったら清水寺に行ける!」


「ラッキー、時間のロスがなくて済んだね。ごんちゃん、よくバスを見つけた」


「でも、席は空いてるかな?」


「あっ、あそこに2人座れるよ。ごんちゃんと芽衣が座って」


「水希は大丈夫なの…?」


「芽衣、大丈夫だから気にしないで」



私は前の方で立っていよう。芽衣の横だと邪魔になるし、きっと芽衣が私を気にする。

このバスは私の高校の生徒が沢山乗っている。みんな、パンフレットを見ながら次はここに行こうとか相談している人が多い。



「あっ、、」


「えっ?」



「あっ、、」っと言う声が聞こえ下を向くと、髪を二つ結びにした女の子が座っていた。この子、確か…マドレーヌの子だ。

どうしたのかな、私を何度もチラチラ見るから気になってしまう。



「水希」


「あっ、さわちん」



さわちんとひかると同じクラスメイトの子のがバスに乗ってきて声を掛けられた。

あれ?ひかるの髪型がまた変わっている。可愛い髪型にしていたのに、今はポニーテールにしている。



「ひかる、ポニーテールにしたの?」


「髪が解けちゃって、、それに汗もかいたし」


「そっか。あっ!さっきね、伏見稲荷大社に行ったよ」


「いいな〜どうだった?」


「頂上までは行けなかったけど、凄く綺麗だったよ」


「あー、頂上まで4キロあるから」



ひかるはちゃんと調べていて偉い。私は衝動的に行ってグロッキーになって引き返してしまったから、やっぱり旅行は計画的に行動しないとダメなんだろう。



「あの〜、高瀬さんですよね?」


「はい」


「この前の文化交流会のピアノ演奏、凄く良かったです!」


「あの、、ありがとうございます///」


「曲も良くて、歌声も最高でした!」


「水希が歌が上手くてびっくりした」


「さわちん、照れるからやめてよー」



褒められることに慣れてないから恥ずかしい。ひかるもニコニコしながら「カッコ良かった」って言うから顔が赤くなりそうだ。



「うぉ、揺れた。ひかる、大丈夫?」


「うん、ありがとう」



急にバスが揺れ、びっくりした。バスは吊り輪か棒に掴まってないと急なカーブやブレーキに対応が出来ない。

ひかるは何も掴まっておらず私の方に倒れてきた。危なかった、、支えられてよかった。



「ひかる、この吊り輪に掴まった方がいいよ」


「大丈夫だよ、水希が困るし」


「私は大丈夫だから」



私は場所を譲り、ひかるを私のいた位置に誘導した。これで私も安心できる。

ただ、芽衣の方を見るとプンッと顔を背けられたけど。絶対に拗ねてる、、あとで、機嫌を直してくれるかな。


後で、あんみつを奢ったら機嫌が治るかな?私みたいに食いしん坊ではないから無理かもしれないけど機嫌の取り方が思いつかない。

どうしよ…芽衣は一度拗ねるとなかなか許してくれないから困る。

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