第62話

「水希、どう言うつもり…」


「別に…」


「ひかるの気持ちを弄ぶな!」


「弄んでない…」


「水希は誰が好きなの?芽衣?ひかる?それとも他に好きな人いるの?」



芽衣もひかるも心配そうに私達を見つめている。他の部員も何事かとチラチラ見ながらヒソヒソ話をする。うぅ吐きそうだ、、疲労と心労で体が悲鳴をあげている。

さわちんに芽衣が好きって言っても、さわちんの怒りは治らない。それに、私からひかるを振ったなんて言いたくない。


さわちんも嫌でしょ…何で私みたいな人にひかるが振られるんだって思うでしょ。私だって思うよ、あんな良い子を振るなんて、、

でも、芽衣が好きだから…振られるかもしれないけど私もちゃんと気持ちを伝えたくて、頑張ろうとしてるんだよ。



「水希、どうなの!」


「好きな人はいるよ…」


「相手は誰…?」


「・・・」


「2人とも今はまだ部活中よ!いい加減戻りなさい!」



お姉ちゃんが近くに来て、先輩として私達を嗜める。さわちんが話の邪魔をされたから苛ついている。お姉ちゃんも、私のさっきの行動に苛つきが見える。

私は疲れたよ…そっとして欲しかった。告白するには勇気がいる。一大決心での告白だから私のペースでやりたかった。


なのに周りが急かしてくる。告白するのも大変だけど、大事な友達を振るってことも大変なんだよ。どれだけ心苦しいか…呼吸が止まるぐらいキツいのに。

お願いだから他人の恋路に入ってこないで、そっと見守っていて欲しい。分かってるよ、みんな大事な人が一番だって。


さわちんとってひかるは大事な友達で、お姉ちゃんも芽衣を気に入っていて。

私だってひかるは大事な友達だ。芽衣も大事な友達で好きな人で、初めての恋に悩みながら一歩づつ進もうと決めていた。

上手くいかないな。私のせいかな…曖昧な態度や意気地なしだから周りを苛つかせる。



「水希…大丈夫?」


「水希!」



意識がフラフラする。さわちんやお姉ちゃんの声が遠くに聞こえる。これって脱水症状かも。今日は無理して走っちゃったし、水もまだ飲めていない。木陰にいても気温は暑く、汗が止まらない。

足に力が入らない、吐き気もするし最悪だ。体調管理もできてないし、選手としてこれじゃ来年大会にも出させて貰えなくなる。


陸上は楽しい。走ると心がスッキリする。でも、陸上部に入って悩み事も増えた。私の周りは常に変動する。

私だけが取り残され、追いつこうと無理をして走り倒れてしまう。大きくなったのは体だけで心が成長していない。










目を開けると、私の視界は白い天井でおでこにはアイスノンが置かれている。隣には芽衣がいて頬に泣いた後がある。

また泣かせちゃった、お姉ちゃんに怒られちゃう。喉が渇いた、、声が掠れて飲み物が欲しいのに声が出ない。



「水希…やっと起きた」



ジェスチャーで気づいてくれるかな。近くにある机に向け、飲み物に指を差す。起き上がりたいけど力が入らなくて腕しか動かせない。

芽衣が一度頭を横に傾け不思議そうにしたけど、気づいてくれて飲み物を取ってくれた。

これで喉を潤せるって思ったけど寝ながらだと飲みにくく…体を少しでも起き上がらせないとダメだ。



「水希、手伝うよ。これで大丈夫?」


「(うなずく)」



やっと体を少しだけ起き上がらせることが出来た。芽衣にキャップを開けてもらい少しづつ飲んでいく。生き返る…泣きそうなぐらいポカリが美味しい。

あーあ゛ーあ゛ー、まだ声が出そうにない…完璧に声が枯れてしまっている。不便だな、声が出ないって意思表示が難しすぎる。



「声、大丈夫?」



首を横に振り、ダメだと伝えると芽衣が落ち込んでしまった。もう少ししたら喉が回復するとは思うけど、喉が痛くてイガイガする。

のど飴ないかな、、芽衣にジェスチャーでのど飴が欲しいって言ったら伝わるかな?



「め゛ぃ…の・ど・・」


「えっ、何?」



喉に指を当て伝えているけど、のど飴って伝えるのは難しく、せめて牛乳があればと思ったけど、保健室だからあるはずもなくキョロキョロと周りを見渡すことしかできなかった。



「水希、何か欲しいの…?」



芽衣が近づいてきて必死に私の言いたいことを理解しようとするけど、私からしたら距離が近すぎてドキドキする。

あっ、芽衣から私が今一番欲しいミルクの匂いがする。ミルマロが飲みたくなってくる。

喉の痛みから甘い牛乳が飲みたくて、あの甘さを欲している。


私の喉を癒して欲しい。まだ唇がカサついていて水分が足りてないみたいだし、もうペットボトルは空で補給ができない。

なぜだか芽衣が私に近づけば近づくほど、ミルマロの匂いがしてくる。前、夢で感じたミルマロの匂いと同じだ。私はずっと欲している匂いに釣られて芽衣との距離を短くする。



「水希…」



やっぱり同じだ。夢で感じたミルマロと同じ匂いがする。力がないから体勢がキツくて芽衣を引っ張る形でベッドに沈んだ。

芽衣が私に覆い被さるように上にいる。唇は重なったまま、微力な力で芽衣を抱きしめた。芽衣の体温で体が癒されていく。

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