第123話 奪還せり

 ――とにかく、キミの師範センセイの魂の居場所を探らないことにはね……。

 九龍の攻撃をいなし、どうにかしてケイの魂に功夫を利用して陽の《氣》を注ぎ込ねばならない。

「これ以上、わらわの心をかき乱すなッ!」

 九龍が功夫を放つのだが、もはやそれは功夫の形を成しておらず、ただ殴る、蹴るだけだ。

「このッ、このーッ!」 

「よッ、はッ!」

 ――いなすのは楽になったけど……。

 哪吒ナタクは九龍の攻撃を受け止めてはかわすのだが、肝心のケイの魂の居場所は不明のままだ。

「はァ……はァ……。クソッ、忌々しい奴めッ!」

 不安定になった精神で技を乱発したのだから、九龍の息は絶え絶えだ。

 ――ダメか……見つからない。

 九龍は消耗により多少おとなしくなったが、やはり肝心の京の魂の居場所はわからない。

 ――アイシャちゃん。なにか、キミの師範の魂の拠り所になりそうな思い出の品とかない?

 魂の避難所として、想い出の品に逃げ込むというのを哪吒は知っているからだ。

 ――師範の思い出の品ってなァ……。

 アイシャが思い起こしてみるが、京は功夫遣いであるからか、元皇族でありながら高価な装飾品を付けたがらなかった。

 ――いや、あったぜ!

 アイシャは想いでの装飾品が一つだけあったのを思い出した。

 ――露天商の兄ちゃんがくれた護符だ!

 いつぞやの露天商が譲ってくれた護符がそれだった。

 無骨なデザインでありふれた金属製の護符だったが、露天商がわざわざ心を砕いて師弟と同じになるよう同じものを探してくれたもの。

 ――師範の道着の衣嚢イノウに大事に入れてる!

 衣嚢――ポケットに後生大事に入れているのをアイシャは知っている。

 ――わかった、ありがとう!

 哪吒はアイシャに礼をいうと、体中に《氣》をみなぎらせる。

「奥義かッ!」

 高まる氣に九龍が警戒し、身構える。奥義かなにかを発動させると思ったのだろう。

「違うよ! これは、魂を強める技」

 哪吒は自身にみなぎる氣を掌に集め、その狙いを道着のポケットに定める。膨らみからして護符が入っているのがわかる。

「相手の魂を強めてどうする。なるほどのう、馬鹿め。よほど妾に殺されたいようじゃな!?」

「……」

 九龍が嘲笑を向けるのだが、哪吒してはありがたい話だった。功夫を京の魂にぶつけるという発想は九龍になかったらしい。

「いくよ、鳳凰心拳フォンフゥァンシンチュゥンが功夫、再生炎拳ザイシォンイェンチュン!」

 掌に集めた氣をポケットの中の護符にぶつける。予想だにしなかった場所への攻撃だったからか、九龍は回避行動すらとらなかった。――命中だ。

「痴れ者が、妾を殺すなら心の臓に当てぬか。そうか、ついに気でも狂うたか!」

 見当違いの場所に功夫を当てたことを笑うのだが、ポケットの護符が熱を持ったことに驚く。

「な、なんじゃこれは……。衣嚢が熱を!?」

「悪いけど、アイシャの師範は返してもらう」

 驚愕する九龍を見て、哪吒はフッと笑った。

「大丈夫、龍の神様。あなたにはアイシャの師範の体から出て行ってもらうだけだから」

「な……、体の感覚が」

 哪吒がそういうと同時に京の体が光り輝き、魂のようなものが抜け出る。これが九龍の魂に違いなかった。

「……」

 京は九龍に憑依されていた影響なのか多少消耗していたようだが、髪の色は元に戻っている。どうやら、九龍から京を奪還することに成功したようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る