第104話 戦線復帰

「……」

 一方、オートマトンとズーハンの攻撃をしのぎ切っていたブオは満身創痍という状態だった。

 すでに息は絶え絶えでありオートマトンの功夫を受けて身体じゅうにアザができてしまっている。

「本当に、お前は人間なのか……?」

 アーサーは博がアーサーの想像以上に攻撃をしのぎ切っていたことに恐怖すら覚えている。

 数を頼みになぶり殺しにしようとしたが、逆に博があのヤンと武勇を競っていたというその言葉を嫌という程に実感させられた形になった。

「くッ……!」

 博は己を奮い立たせ、立つ。もはや博を支えるのは、気力と矜持のみとなっていた。

「参謀、どうして……?」

 ようやくショックから立ち直った妲己ダッキが博に尋ねる。

 博は妲己のほうを振り向かなかったが、答えを返す。

「……言ったはずだ、私は帝から兵を預かっている。軍人として兵を殺させるわけにはいかん。彼らには家族がいる」

 博はオートマトンの功夫を受け流しつつ、語る。


「これは、私の軍人としての責務だ」


 満身創痍ながらも前を見据えることができるのは、己の責任を果たさんと強い意志するゆえだ。

「そうか……」

 博の言葉に感じるものがあったのか妲己は目を静かに閉じる。

「立てるなら、ここから逃げろ」

 戦えと言わなかったのは、妲己が受けているショックを思えばこそであり、兵と同じ死なせたくない存在だからこそである。

「いや……それはできない」

 それを聞いた妲己は首を横に振り、そして妲己は己の頬をはたく。 

「死ぬ気か!?」

「いや、そうではない」

 驚く博に妲己は立ち上がり、フッと笑う。

「また逃げ出していたようだ。本当にすまなかった……ッ!」

 拳を握り、妲己が前を見据える。

「おかしな奴だ……。死にぞこないを庇いながら戦う気か?」

 アーサーが嘲笑するのだが、妲己はククッと笑い。

「参謀は守り切る。それが私の返礼だ」

 オートマトンの功夫を弾きながら妲己は宣言し、ズーハンを見据える。


「そして、ズーハンも助け出す、殺さずにな。貴様から受けた借りを存分に返してやるのはそれからだ!」

  

 この妲己の高らかな宣言は、オートマトンの戦意を奪うには十分だった。

「妲己さんッ!」

「ッ!」

 後方から声がする。見ると木々の間をすり抜けるスープーの姿が見える。

 ケイ、アイシャ、メイズが到着したのだ。

「どうやら、こちらの勝ち筋が見えてきたようだな。頼むぞ……」

 博の言葉通り、役者は揃った。反撃の狼煙を上げる時だ。

  



  


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