第88話 博の狙い

「太公望殿」

「どうしたんです、参謀殿?」

 出立した後、博が待機していた太公望を呼び止めると、太公望が足を止めて振り向いた。

 そして耳打ちし、

「スープーシャンと共に囮になっていただきたいと思いまして」

「……まァ、キョンシーどもとやりあった時にスープーの事は知ってるだろうし。寡兵よく大軍を破るともいうからな、まァ、寡兵なのは向こうではあるだろうが」

 と、太公望が孟子も記していた格言と相手への皮肉を呟く。確かに籠城するには最適の環境だが、兵力ならとしてはフェイたちが上だからだ。

「ですので魔術師メイガスの間諜がいる前提で、ブリーフィングを開きました。恐らく、彼らは対空戦力を保持している」

「間諜に聞かせて作戦を練らせ。こちらはあえて分散させることでヤン将軍の負担ともう一つの本命であり帝サマへの狙いを逸らさせるって訳か」

 博は抜かりがなかった。魔術師に対空戦力を出させることで更なる分散を図ろうというのだ。

「そういうことです。捕虜から聞いた話ですが、彼らは異能者にして元キリスト教の対異能者部隊でもあり、首魁は強力な魔法を使える可能性があります」

 魔術師と名乗る組織の首魁ならば可能性が高いと博がそういった時だ、スープーが慌てて部屋に駆け込んでくる。今は人間の形態だ。

「あッ、先生!」

「どうした、スープー!?」

 訊ねると、おっとしているいつものスープーにしては慌てた声で、

「変な羽の生えた連中が空を飛び回っているみたいなんです!」

「羽の生えた連中……。なるほど、西洋式の召喚術って奴でび出したのか」

 太公望は順応性がかなり高い。数百年前ぶりに目覚めたからにも関わらず現代の戦術や知識についていっているのだから。

「だが、霊獣や空飛ぶ絡繰兵とかじゃなく、召喚術で助かった」

「どういうことですか、太公望殿?」

 博が訊ねる。西洋の軍略、知識を事を学んでいる男ではあるが、魔術などについてはあまり知識はない。

 だから太公望が説明する。

「召喚術は召喚した術者からあまり離れられねェのさ、たとえ戦術級の化物でもな。そして、現世に呼び出し続けるだけでも《氣》を必要とする。

だからこの本陣は召喚獣じゃ狙えねェし、不帰の森を覆う霧もあいまってヤン将軍、帝サマへのへの攻撃もまずこない」

 博の狙いは奏功したと太公望はそういったのだ。大量の召喚獣を現世に固着させるクロウリーの負担も相当なものになると。

「まァ、俺らが外れクジは引いたのは変わらんが」

 太公望はククッと笑っているが、その顔は自信に満ち溢れていいる。そして、スープーに顔を向ける。

「スープー、今回はお前が頼りだ。今回は全力でな」

「わかりました!」

 と、スープーは軍人たちの敬礼を真似する。そしてこの口ぶりからしてまだ全力ではなかったらしい


「よし、そろそろ打って出るぞ、スープー。京ちゃんたちを呼んでくるとするか」

 

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