第86話 制圧戦ブリーフィング

「それでは、不帰の森に存在する古代遺跡制圧戦のブリーフィングを開始する」


 壁に貼り付けた不帰の森周辺の地図を博は指示棒で指し示す、西洋の言葉を使いたがるのは博の癖なのだろう

「まずヤン将軍は兵を率い、正面に配置されているであろう魔術師メイガス麾下きか部隊のあぶり出しを行う」

「参謀、魔術師の兵科は?」

 ヤンが手を上げて博へ質問をする。陽動を行うのだから敵の戦力を把握は重要だ。

「絡繰兵が苦手な分野を補うため偵察兵スカウト狙撃兵スナイパーであるのは間違いないだろう。捕虜の話によれば古代遺跡から出土した兵器だけでなく奇妙な術を使うとある。警戒を怠るな」

「なるほど……。西洋の術師とあるので天変地異を起こすのだと思っておりましたが」

 このような魔術への偏見を持っているのはヤンだけでない。西洋の魔術師といえば天変地異を起こすのだと思ってしまっている。

「寧ろ派手さのない魔術の方がよほど恐怖だ。敵の認識を阻害したり、物音を消したり出来たとされ、古来暗殺にも使われていたとされるのだからな」

 博はそういった偏見がない。いちはやく西洋の戦術を取り入れた男の見識だけはある。  

「西洋で行われた野蛮な魔女狩りにより迫害されてきた者で構成されていると私は見ている。錬金術師アルケミストと手を組んだのはこの国を安住の地にするためだろうな」

「博」

「申し訳ありません、フェイ陛下。熱が入りすぎました……」

 フェイに注意され、博はそこで咳払いをした。この博という参謀、どうにも政治の話を織り交ぜたがる傾向にあるようだ。

 博の家は軍人を輩出するほどの家柄であるらしいが、ここまでのし上がれたのは優れた政治力もあったからだろう。

「では気を取り直して、フェイ陛下が率いる遺失叡智イージールイヂーは森の南側を急襲。濃霧の原因となっているであろう火と水の《氣》を排除していただく。

功夫遣いでもある偵察兵が感知したのは大きな《氣》とあるため、ただの妖怪変化であるはずがないからな」

「了解、サーッ!」

 陣たち遺失叡智所属部隊の兵士たちが敬礼をする、さすがというべきだろう。

「霧が晴れ次第、ヤン将軍と遺失叡智は合流し、総力戦を行い、配備されている精鋭絡繰兵を撃破してもらう。質問はないか?」

 誰も挙手するものはいなかった。総力戦を行うという単純な話だからだ。

「よし、では次だ」

 博は話を次に進める。ここからが重要だった。

「別動隊として太公望殿率いる功夫遣いたちが、麒麟である不四像スープーシャンによる空中からの奇襲を行い、内部の首謀者を捕縛し、神の絡繰とやらを撃破してもらう」

 別動隊とはあるが、アーサーたちが神の絡繰を完成、起動に成功させていたのならむしろ主力部隊ともいうべき戦力だ。

「太公望殿、お願いしましたよ。正直神の絡繰の存在など疑問でしかないですが」

「わかってるさ。正直、神の絡繰なんぞ当時の俺でも起動したのを見た事がないからなんとも言えが、全力は尽くすさ」

 博の話に太公望は肩をすくめるしかなかった。ちなみにブリーフィングに出席しているのは太公望と人間に化けているスープーだけだ。

 ほかの功夫遣いはこういった決まりきった場にでるのは苦手らしい。


「それでは出陣は三時間後の10:00《イチマルマルマル》とする。それでは、解散ッ!」


 博が解散を告げる。

 

 最終決戦への出陣の時は近づいていた――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る