第84話 好敵手(改稿済み)
「……負けた功夫の老師を笑いに来たか?」
妲己はすでに目覚めベッドから身を起こしている、入ってきた太公望を見て当然いい顔はしない。
「いいや。無事で安心したし、キョンシーを倒してくれた礼もある。最後の戦いから何百年ぶりの再会も祝いたいし、な――」
太公望が冗談めかして手を上げるのだが、妲己はまだ機嫌を悪くしたままだ。
「お前は少年であったころとだいぶ変わったようだがな」
「……ふッ、俺は天然仙人なんでな。老化が人工仙人よりちィとばかし早ェんだよ」
鼻を鳴らす妲己に、太公望は笑って呟いた。しかし顔は物憂げだが。
天然仙人は銀の水を飲まずに仙人になったゆえか常人よりは遅いとはいえ老化するという難点がある。
しかし、太公望の場合はそれより紂王を死なせるなどで精神的なショックを受けたことで一気に外見の老化が進んだのだろうが。
そして妲己を診ていた凛に顔を向け、
「すまんな、軍医殿。妲己とちと込み入った話がしたいんだが……」
「……、わかりました。」
凛は二人がかつての好敵手だと知ってる。それを察して外に出て行った。
「んじゃ、話をしようぜ」
話を再開しようと太公望は妲己に向きなおり、椅子に座った。
「いいだろう。……その変わりよう。季子を死なせていることを、今でも後悔しているのか」
妲己も太公望が太公望廟に兵器と共に自ら封印したのを知っているからだ。
「その通りだが、それだけじゃない。お前ら殷と戦争を起こした事もだ」
「……?」
妲己は何を言っているという顔をしていた。
「西洋の列強が覇を唱えてる今の時代を見て、当時の俺たちも考えを尽くして融和策を立てるべきだったんだと思わされたんだよ。無論、戦いを避けるために軍は強化すべきだがな」
「ただあの遺跡で朽ちるまで眠っていたわけではなかったのだな」
太公望の展望に妲己は皮肉を交えて返す。
「いやな、京ちゃんに奥義でぶん殴られて目が覚めたんだよ」
「京ちゃん……だと?」
そこで妲己の目が吊り上がる。奥義で殴られたことより京をちゃん付けで呼んだことがまずかったようだ。
「ん、いや。極陽拳の奥義を授けた弟子だし、親しみを込めてだな――」
「貴様如きがちゃんづけで呼んでいい名ではない!」
「ふごォッ!」
妲己はベッドから跳ね起き、油断していた太公望の顔面に拳の一撃をくれてやる。妲己にとって今日もまた弟子の一人なのだ。
「……ったく、痛えな。いやはや愛されてるねェ、京ちゃんは」
吹き飛ばされた太公望は頬をさすりながら、椅子に座る。
「減らず口を……。悪い意味で親父臭くなったようだな、お前は。前言は撤回させてもらう」
拳を震わせていう妲己は減らず口を聞く太公望に呆れ果てていた。
「さて、おふざけはここまでにしよう。過去の遺恨は一時だけ捨てて、奴らを止めるために協力してほしい。敵に回して分かっただろう? 奴らはただの科学者連中じゃない」
ようやく太公望は本題を切り出した。協力して敵を討つため協同して事に当たってほしいと、そういうことだ。
「……」
妲己もそこは実感させられていた。遺跡のある不帰の森は原因不明の濃霧だけではなく、軍関係者が加わったようでり的確に人間の兵士も配置していた。
「もし連中が神の絡繰を復活させてるなら京ちゃん、もしくは奥義を持つ俺たちが必要になる」
「……」
それを聞いた妲己は目を伏せ、そして口を開く。
「ケリをつけたいのは私も同じだ。過ちにな」
妲己は手を差し出す、握手をしようというわけだ。
「西洋の挨拶か。すまん……、ありがとう」
「……。その綺麗な瞳はあの頃と変わらないようだな」
固く握手をすると妲己はなぜか吹き出した。そして目ではなく瞳――、妲己がそういったのも気になる。
「おいおい、気持ち悪いな。俺の目がどうしたって?」
そういわれた太公望は目に手を遣ってしまうのだが、
「信念に燃えている少年の頃のままだと思ってな」
数百年前のままだと妲己はそういったのだ。
「……ったく、痺れるね。褒めても何も出せねェが、ありがとよ」
妲己の言葉に感じ入り、太公望はさらに強く握るのだった。
妲己と太公望、かつての戦争の好敵手が手を組む――これほど心強い事はない。
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