第61話 太公望もまた……
「クソォォォ――ッ!」
フェイによって投げ飛ばされた人形が膨張し、爆発した。焦げたような臭いが爆発地点から漂ってくる。
「思った以上に機械部分が多いな……。オートマトンは絡繰兵に近い存在なのかもしれないな」
フェイが臭いに顔を顰めつつも、爆発地点を調べる。機械部品と生体部品が散らばっている。
「ズーハンはどうなんだろうな……」
アイシャがふと思い出すのは絡繰人形を名乗った少女の事だ。
「ふむ……、答えを出しにくい話だな。だが、私は仮に絡繰人形と共に生活するようになるならば、彼らの偏見を取り除きたいとは思っている」
人形を人間として個を認めるとフェイは言っている。
「だからこそ、彼らをただの道具として使うシロアリ共を許すわけにいかんのだ」
フェイは知らないが絡繰兵の扱いは妲己やズーハンとよく似ており、人権を認めるべきだと考えているのだ。
「そっか、そうだよな。アイツが絡繰かどうかなんか関係ねェな。ホント、妲己もあいつも
「それはそうね……。妲己もズーハンも悪い人ではないんだし」
承諾なしに京を仙人に変えたり戦役を引き起こすきっかけの一人ではあるが、この戦いを経て京もまた考えが凝り固まっていたのだと思い知ったのだから。
「しっかし、あいつら最近見ないけど。何やってんだろうな、連中から逃げてりゃいいな」
「そうねェ。二人はあんなことから足を洗ってほしいわ」
アイシャの言葉に京じゃ頷く。しかし、まさか二人が京の偽者として人助けをしつつ、敵の本拠地に向かっているとは思っていなかっただろうが。
「さて、調査も終わったし。太公望廟へ向かうとしよう。まだ古の兵器が奪われていなければいいが……」
人形の機械部品を回収したフェイは太公望廟を指さす。
「なんか、普通のお墓ね」
太公望廟の内部を見て京が呟いた感想がそれだった。すさまじく故人に失礼な感想だとは思うのだが、拍子抜けしたのは事実ではある。
埋葬された者を慰めるためか人を模した石像が辺りに配置されていた。中には壊されたものがあり、盗掘もされていたようだ。
「ふむ……。古代兵器が眠っているのだから、高度な建築技術や未知の素材が使われていると思ったのだがな……」
拍子抜けだとフェイですら肩をすくめてしまっていた。こちらは研究者としての
「棺もないのか?」
周囲を探るが、太公望が眠っているであろう棺は見当たらない。
「盗掘されたか、もしや……」
フェイが顎に手を当てて考え込む。
「まさか、今でも生きてるって事?」
京が突拍子もない事を口にすると、アイシャは違うだろうという風に手をひらひらとさせる。
「まさか、墓を作ってんだから死んでんだろ?」
「いや、太公望も仙人の一人だ、考えられるだろう。妲己も生きながらえているのだからな」
フェイは京の言葉を肯定する。太公望廟自体がそもそものフェイクなのだと。
「恐らくこの墓はガワでしかない。奥に続く仕掛けを探すぞ。やはり父上たちは奥に続く道を探せていない」
仕掛けがあるはずだと、フェイが言うのだが。
「そういやちょっと想い出したんだけどよ。太公望は封神石がなくなったから、自分を封印するために石になったって話が。歴史書にあったわね」
「石か……」
太公望は自らを石に変えた、その逸話がヒントになっているのではないかと感じたのだ。
「あったな」
フェイが目を凝らすとひときわ大きな石が奥に設置されてた。乱雑に置かれているものと違い、鎮座しているという風で、意図的に置かれているのは明白だった。
「なるほど。これを破壊すればいいのだろう」
と、フェイは背負っている鞄から何かを取り出す。
「力技かよ」
アイシャが呆れるそれは、ニトログリセリンを使用する高性能爆薬だった。
「いちいち謎を解いている暇はない。離れるんだ」
岩を砕こうというのだが京が止める。
「ちょっと待って。太公望は仙人だから……」
京が岩の前に立ち、構える。
「コォォォ……」
息を吸い込む、《氣》を高めるために必要な動作だ。
「まさか、功夫で岩を砕くつもりか!」
「おい」
アイシャとフェイが京を止めようとするが、京はニッと笑い。
「多分、これが正解ッ! ハァァッ!」
京は叫び声と共に《氣》の乗った拳を岩に叩きつける。
「……」
目の前で起こった光景にはフェイもアイシャも黙らされた。
功夫によって大岩は砕かれ、奥に続く道が開かれたのだから
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