第38話 妖怪と白衣の者の噂

「……」

 奥の部屋で話し込んでいた陣たちが部屋から出た、三者とも厳めしい顔をしている。

「何かあったのかよ陣のオッサン」

「うむ……。これを民に話していいものか」

 気にしたアイシャが聞くのだが、陣は考えあぐねていた。

「軍の機密に関わる事ですか?」

「いや、そうではなく。近くの村に人を襲う妖怪が現れたようのなのだ。しかし……」

 妖怪、この大陸では珍しくはない存在ではあり、退治もされているが。不審な点があるという。

「しかし、って何だ?」

「それと同時に白衣を着た連中を見かけたそうだ。それも――絡繰兵を伴っていたという話もある」

 しかしという言葉を気にしたアイシャに答える陣、絡繰兵――つまり、妲己が関わっている可能性があるという事だ。

「白衣というのが気になりますね……」

 妖怪と絡繰兵を伴った白衣を着た者たち、奇妙な取り合わせではある。 

「なるほどな、白衣の連中とやらをこうやって締め上げればいろいろとゲロってくれるかもしれないぜ」

「アイシャさん。言葉遣い、どうにかなりませんか……」

 首を絞めるような物騒なジェスチャーを伴いつつ、アイシャが言う。それを聞いていた凛は顔を顰めていたが。

「そうね……。その妖怪が出るっていう村に行きましょうか?」

「京殿、よろしいのですか?」

 陣が恐る恐るという風に訊ねる。京は真相を探るために都に向かうために旅をしているのだ、それを止めるわけにはいかないというのだが。

「もしかしたら、妲己が動いてるかもしれないし。アイシャの言う通り、本人から聞くほうが早いでしょ」

「へへッ、珍しく話が分かるじゃねェか。嬉しいぜッ」

 アイシャが白い歯を見せて笑う、よほど嬉しかったようだ。

「老師様、弟子の考えが伝染うつってませんか?」

「そうかもしれないわね~」

 凛が肩をすくめるのだが、京はどこ吹く風と笑っていた。


「それに人を害する妖怪や獣を退治するのも老師の仕事だから」 


 それが本命だと京は語る。人を助けるために功夫を振るうのが、京の矜持だ。

「我々軍も同じです。それに白衣の連中が妲己と通じているならば、我々遺失叡智イーシー・ルイジー部隊の出番でもあります」

 両者が目指す道は同じだと陣は言う。人を守るという使命は老師も軍も同じように持っているのだ。

「実は言いますと、私はヤン将軍に憧れておりましてな」

「ヤン将軍に? 失礼ながらフェイ様のシンパだと思ってました」

 帝のフェイは前皇帝である龍の施策とはほぼ正反対の立場をとっている。フェイの政策を肯定しているのだと思っていたのだが、

「ヤン将軍は民兵出身と聞いていましてな。その頃から民のために戦うお方だったと聞いています。年老いてもなお前線で指揮を執る姿は皆の憧れですよ」

「将軍って民兵出身だったのね、知らなかったわ」

 ヤンが帝直属の部隊に入ったころから知ってはいるが、民兵出身だったのは初耳だった。

「……さて、長話もここまでにして、目撃のあった村へ向かいましょう。よし、馬を!」

「はッ、軍馬はここに!」

 陣が呼びかけると部隊の兵士が馬を連れてきた。


「よし、妖怪の目撃報告があった村へ向かう」


 こうして、妖怪退治へと向かうのだった。


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