第382話 大事になる予感

無事に大量の難解な資料の中から、目当ての学校の記録を見つけた。しかし、それを見て、どうにも嫌な予感がした。


「見つかったのは良かったが……これは……」

「さすがに、予想していませんでした……」

「……」


高耶は、律音と勇一で急遽、見つけた資料の裏を取るために、連盟の資料庫に入ったのだが、これにより、その予想が確かな事が確認できてしまったのだ。


そして、高耶は思い出した。


「……まさか、これを知っていて、あの神は……」

「どういう事ですか?」


律音が考え込んだ高耶に声をかける。


「言っていただろ『特に姿に拘りはないのだがな。さすがに奇抜な姿では、この者達に妖だと思われる可能性もあるだろう?』と」

「っ!! それって!」


律音は信じられないと目を見開き、勇一も愕然として言う。


「……妖と判断してしまった……土地神を?」

「そのようだな」


そう。あの場に封印されているのは、土地神だったのだ。


「恐らく、神木を切り倒されたことが原因だろうな。あの神木の配置は珍しいものだったし……」


三点に神木があるというのは、珍しい配置だった。敢えてそうあったならば、それを切り倒されてどうなるかは予想できないことではない。


勇一は不安げに口を開く。


「あの神が言っていましたね……『今後は目を閉じることなく、受け入れるべきことを正しく見定めていってくれ』と……あれは、警告の意味もあった?」

「だろうな。あの神は知っていたんだろう。だから、俺を理由にして、あえてあの場に出てきた」

「忠告するために……」


あれは、神職の者達への警告であり、忠告だった。神を妖として封じたことへの嫌味であり、神気にも気付かないことを恥じろという意味だったのだ。あの場では、高耶達にも読み取れなかったが、間違いないだろう。


今度は律音が考え込み、高耶へと確認する。


「師範……こうなると、場を整える奉納ライブより先に、土地神様をどうにかしなければいけませんよね?」

「ああ。どうにも、あの場所は土地神の加護が薄いと思ったが、まさか、封じられているとはな……」

「封じられた状態というのも問題ですが、おそらく……お怒りですよね?」

「間違いなくな……」


顔を顰める高耶を見て、勇一も何が問題なのかに気付いた。


「あ……神は祟る……?」

「そうだ。吹き虫が異常に多いのも、恐らく、寄せているんだろう。負の感情は連鎖しやすい。そのエネルギーを集めているんだろう」

「なんのために……」


勇一は、神と対峙した仕事などほぼない。だから、この例を知らなかった。


「土地に禍いをもたらすためだ」

「禍い……っ」

「土地を枯らし、加護を逆に向ける。そうして、更に狂っていく。最後に消滅する」

「っ、どうして……」


なぜそんなことになるのかと、勇一は目を丸くする。律音も悲痛な面持ちで高耶を見ていた。すると、その説明を引き継いだのは、この場にやって来た焔泉だった。


「神かて、悲しい想いや、裏切られたという想いをずっと持っていたくはないものだ。せやから、忘れようとして狂う。何も分からなくなれば、辛いと思うこともあらへんやろ? 神は原来不死……これが曲者や。終わりがあるから、救われることは多いんやで?」


焔泉は、いつものように微笑みながら、高耶の持っていた資料を手に取った。


「忘れられるゆうことも、救いや。けど、神にはそれが自然やない。守護する土地への想いも変わらん。その変わらんものと関連することは、まず忘れられんもんや。せやから、ずっと悲しみや辛さは消えへんのよ」


その恨みを忘れられたら良かった。だが、残念なことに、昇華できない想いは消えない。


「狂うんは、そのせいや。封印されたんは……ある意味良かったんかもしれへんなあ。みすみす神木を切らせ、あまつさえ土地神を妖と判断するような者が、その土地神を鎮められるとは思えん」

「はい……」

「場を用意するだけではあかんなあ」

「ええ……きちんとお祀りしなければいけません」

「神楽部隊の出番はその後やなあ」

「そうなりますね……」


正しく音を拾ったところで、今あるのは、狂った土地神の音だ。それでは意味がない。


「これは緊急性が高そうや。早急に会議やな」

「……お願いします」

「もちろん高坊もやでな?」

「……はい……」


かなり大事になりそうだった。











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