第377話 やはり隠せないようです

すぐに部屋に通されたが、中々相手は現れなかった。既に三十分ほど待っている。


「ごめんね。高耶君。時間は間違っていないはずなんだけど」

「いえ。休みの日ですし、参拝客も多い日なのでしょうから」

「まあ、程よく居たな。年末年始にどれだけ来るかは知らねえけど」


達喜は苛つくことなく、のんびりと暇潰しがてら、この場所の音を聴き取り、楽譜に起こす練習をする律音の様子を見ていた。神楽部隊のやっていることを目の前で見られるというのは、珍しいことで、飽きずに時折話しかけては見ていた。


勇一もその傍で不思議そうにその作業を見ている。特に待たされて苛立つ様子は見られない。


伊調や付き人の女性も、寧ろのんびりと高耶と話す時間が出来たと喜んでいるようだ。


「そういえば先日、優希さんの学芸会で、霧矢さんと特別演奏をされたとか。録画したものを今度、姫様に観せていただく約束をしました。子ども達の演劇もとても素晴らしかったとお聞きしましたよ。是非そちらも観せていただこうと思っております」


伊調も瑤迦の所にはよく行くようになったらしい。そこで、学芸会のことも聞いたのだ。そこで、優希達とも顔を合わせることがあり、今では実の孫のように可愛がってくれている。


「ありがとうございます。優希も喜びます」


映像を編集したものを流したことで、DVDにしてもらえるのではないかと、あの後すぐに教師達に保護者達がお願いしていた。ほぼ全ての保護者から学芸会の映像が欲しいと言われたようだ。その場で房田音響の社員達がOKを出していた。


昨日、早速その注文を取る紙を優希が持ち帰って来ていた。学校の近所の人たちからも、是非一枚欲しいと言われているらしく、急遽の注文書は町内会の方にも配られた。今日辺り、回覧板が回っているだろう。


「ほほっ。土地神様も満足されたものだったとか。楽しみです。そうそう、霧矢さんの演奏会に御当主も友情出演されるとお聞きしました」

「ええ。修さんの父親の賢さんとその友人のヴァイオリニストの方の作った最後の曲を発表することになっていまして。その曲だけのつもりだったのですが、連弾も是非と」

「それは楽しみなことです。是非演奏会に行かせていただきます」

「ありがとうございます」


クリスマス前にある冬の霧矢修のコンサート。いつもは、海外でだったが、今回は日本でだ。海外でのファンも多いということで、三日間の公演を予定している。


修のコンサートは、やっても二日だったのだが、今回は高耶が参加する。これにより、一日増えたのだ。しかし、これを高耶は知らなかった。


「御当主のファンが予想よりも多いそうで、チケットの争奪戦があるのではないかと、霧矢さんが心配していましたよ」

「え? そんなことは……」

「あり得るねえ。だって、高耶君のバイト先、同伴者の人数制限あるんでしょう?」

「……よく知ってますね……」


雛柏教授に、バイトの話はあまりしていないはずだった。しかし、彼の横の繋がりはすごいものがある。


「そりゃあね。知り合いが通い詰めてるんだよ。その人達がね。外でコンサートでもやったら、家族全員連れてくるのにって言ってたんだ。だから、今の高耶君のバイト先に来る人たちの家族や知り合い、今までの同伴者の家族とかも来ると思えば、普通にホール埋まると思うよ?」

「……そこまでは……」

「間違いないって。だから三日なんだよ」

「え……」


その通りだった。


そんな話をしていると、ようやく相手がやって来た。


「遅くなり申し訳ない」


そう言った年配の男性は、本当に申し訳なさそうに頭を下げたが、それに付いて来た四十代と三十前半頃の二人の男性は悪びれた様子はなかった。寧ろ、その目には警戒と侮蔑が見て取れる。


達喜が代表としてその前に座った。


「時間を作っていただき感謝する。幻幽会、首領の一人、夢咲家当主の夢咲達喜だ」

「っ、夢咲……っ、これはっ、お初にお目にかかります。この神社の宮司ぐうじ宝泉ほうせん孝己たかみと申します」


四十代の男が息子で、宮司の補佐的な位置にある権宮司ごんぐうじ。その補佐に当る禰宜ねぎが三十前半頃の男性だった。


一番上の三役が出て来た形だ。


「時間も惜しいでしょう。早速話を聞かせていただきたい」


何気に達喜は嫌味をと思って言ったのだが、それよりも、相手には気になることがあったらしい。


「はい……その……その前に……そちらの御方は、どちらかの神子様でしょうか。その……神気が感じられるのですが……」

「ん? ああ、高耶のことか」

「……」


全員の視線が高耶に向いた。不本意ですと顔に書いてあった他の二人も、高耶に目を留めて目を丸くしている。


「高耶……お前、神気抑えれるようになったんじゃねえのかよ……」

「すみません……」


達喜に呆れた顔をされた。











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