第370話 ゆっくりと理解しているようです

那津が、瑶迦達の視線が集まって固まっている者達へと声をかける。


「やはりありますのねえ。けど、本当に大変な事になりますから、気を付けてくださいね?」

「大変なことですか……?」

「ええ。条件はあるそうなんですが……なんだったかしら? 御当主」


そうして、高耶に話を振る。


「そうですね……一つは信仰が薄れ、神の力が弱まった所であること。二つ目がコックリさんのようなことを頻繁に行った場所であること」

「ようなこと……とは……?」

「今はネットなどから情報が拾えたりはしますが、どれも曖昧です。それっぽいことを書いて、やるでしょう?」

「ああ……」

「そうですね……」

「子どもがやることですしね……」


正しいものがどれかなんてこと、分かるはずがない。何をやっても、それっぽいものでしかないだろう。


そこで、俊哉が口を開く。


「そういやあ、本当に正しいやつって、どんなんだろうなあ」


それに答えたのは、イスティアだ。頬杖を突いて面白そうに顔を向けていた。


「確か、元々は、西洋の占いの一種からだったんじゃねえか? だから、あの紙については、特に正しいものはないと思うぜ?」

「そうなの!? やっぱ、気持ちってやつ?」

「人の強い思い込みってか、思念ってのは、ある意味霊力的なものを発生させるエネルギーになるんだよ。それが強く発現するのが、思春期の頃でさ」

「おおっ。思春期っ。厨二病に罹りやすい時期ってことだな!」

「ははっ。そうだなあっ」


そういう年頃が重要らしい。


「まあ、悪いことじゃねえんだぜ? 魔術師や祓魔師エクソシストも、その辺の時期に修行すると、感覚を覚えやすからな」

「へえっ。高耶もその辺の頃に修行したのか?」

「……術系のは……確かにその辺の時期だったかもな……」


言われて、高耶はその頃を思い出しながら答える。因みに、召喚している将也もそうなのかと頷いて聞いていた。


「俺らも、高耶にその頃に色々教え込んだもんなあっ」

「そうだったわねっ。あの頃の高耶ちゃんも可愛くってっ。何でも教えたこと、すぐに出来ちゃうんだものっ。楽しかったわねえ〜」

「そうそうっ」

「……」


キルティスとイスティアが懐かしいわと頷き合う。高耶は少し虚な目をしていた。俊哉が思わず気遣う。


「高耶、頑張ったんだな」

「……」


静かに同席していた統二は、キラキラした目で高耶を見る。キルティスとイスティアから指導も受けていたというのが、瑶迦に指導を受けている身としては尊敬出来ることのようだ。


「……術……者……ですか……」


話を聞いていて、戸惑う様子が見られた。だが、那津は得意気に伝える。


「こちらは、武道と陰陽道の名家の御当主なのです! 私の実家も、いわゆる祓い屋の家系でして、そこに、嫁ぎ先が武術を扱う家だったのです。それで縁ができまして、お世話になっていますの」

「祓い屋……本当にあるのですか……あ、いや、神もいらっしゃるのですから……それに、コックリさんの話もありますし……」

「ええ。胡散臭く感じるのも分かりますわ。ですが……そういう世界もあるのだと、素直に認めるのも大事ですわ」

「……そう……ですね」


否定するばかりの考え方は、教育に関わる者にとっては良くないものでもある。それを認め始めていた。


「それに確か、コックリさんのことでも、妖の好む強い不満の感情があったり、妖やコックリさんのことを極端に信じていない者がいると、更に土地の、神の力を弱めてしまうのですわ」

「……その……神の力が弱まると、具体的にどうなるのでしょうか……」


これが一番聞きたかったことだろう。


これに答えたのは、瑶迦だった。


「そうですわねえ……守護する土地に加護が充分に届かなくなります。神の守護が薄れた土地は、悪い気が溜まります。悪い気は、気鬱になりやすくなったり、どうしようもなく苛立ったり、どことなく体調が優れなかったりといった影響を人に与えるものです。そして、妖に取り憑かれやすくなる……」

「妖……」

「ふふっ。妖が視えない方々には、信じられませんわよね。ここには、わたくし達が居りますから、さすがに居りませんけれど……分かりやすく言いますと、憑かれた者は、普段はしない判断をしてしまったり……魔が差すと言うことが多くなりますの」


美しく微笑む瑶迦に若干見惚れてもいるが、先ほどよりも理解を示す表情を見せていた。


「犯罪の全部が妖のせいというわけではありませんけれど、多くはなりますわ。欲望に忠実になりやすいのです」


ここで、俊哉が口を挟む。


「この近くでも、取り憑かれた奴が、子どもを連れさろうとしたことがあるんだぜ? 見てるだけで満足してたのが、行動に移しちまったって奴がさ。けど、警察に捕まってもそれは妖のせいじゃなくて、本人の責任になるんだ。ちょい気の毒だよな〜」

「そんなことが……っ」


自分たちの中で、今聞いたことをゆっくり落とし込んでいく。その端で、イスティアとキルティスが話していた。


「妖の気は、枷になる所を緩めちまうからなあ……けど、その判断を下すのは本人だ。妖じゃねえ。責任を取るのは仕方ねえさ」

「まだ妖は良い方じゃない? 低位の悪魔は、明確に人を絶望に落とそうとするもの。あいつら、人の世界の倫理観や善悪をちゃんと理解してるのよ? けど、妖はあまりそこは気にしないわよね?」

「妖は、最初から傾けやすい、枷を外しやすい者を選んでいるんでしょう。堕ちやすい性質を見せた者を狙っているのではないかと」


高耶がそう言えば、視線が集まった。しかし、高耶はそれを気に留めない。召喚した果泉に抱っこをせがまれていたためだ。抱き上げて膝の上に乗せ、お弁当の玉子焼きを小さく切って、果泉の口に運んでいた。


「じゃあ、高耶君は、悪魔をどう思う?」


微笑ましげにその様を向かいの席で見ていたエルラントが問いかける。これにも顔を上げる事なく、高耶は次に果泉が食べたがったミニトマトを食べさせながら答えた。


「あれは愉快犯です。寧ろ堕ち難いのを狙うものもいる。クティは確か、それぞれが無意識に好む魂の匂いで選んでいると言っていましたよ」

「へえっ。それは知らなかったわ!」

「なんだよ。アイツ。俺らにはそんな話したことねえんだけど」

「高耶君はやっぱり、アレに気に入られているんだねえ」

「クティには、中々会えないので、気になっていることをまとめて聞いていたりしたんですよ。果泉、ミニハンバーグはどうだ?」

《食べるっ!》


そんな話もしながら、高耶と果泉の様子に癒されて昼食休憩が終わった。そして、午後の部が始まる。









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読んでくださりありがとうございます◎


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