第356話 ようやくの帰宅ですが……
納得はし難いが、キルティスとイスティアが土地神とも渡りを付けたらしく、しばらくは彼らの好きにさせるということになった。
そんなことを蓮次郎や焔泉達に告げれば、内心呆れながらもだが、少し肩の力を抜いていた。
「あの方々が見てくれるなら、鬼の事も心配しなくてよさそうだしねえ」
「エルラント殿も居てくれるとなれば、安心だわ」
監視役というか、エルラントがちょくちょく見にも来てくれるというのも安心できたらしい。
「こちらも瑶迦さんの所から扉を繋げてあるので、いつでも行けます」
「高耶君に、本部からも繋げてもらったし、何かあればすぐに駆けつけられるね」
「私どもも時間が空いた時には参りましょう」
伊調達、神楽部隊も本部へと繋がる扉を持っている屋敷は各地にあるので、そこを経由して来られる。
何よりも保養所としての利用を目的とした場所なので、各地からの扉が用意されていた。何かあれば本当にすぐに駆けつけることができるだろう。
「では……」
高耶は蓮次郎と焔泉に目を向ける。結論は出た。
「「とりあえずこのままで」」
「はい」
現状維持で決まった。これにより、ようやく高耶は帰宅できることになったのだ。
家に帰った高耶だが、ほっと息を吐く暇はなかった。
「お兄ちゃん! 『学芸会』こんしゅうの日ようびなんだけど? こられるんだよね?」
「……行きます……」
帰ってすぐ、腰に手を当てて、夫に休みの日の予定を確認する妻のように、困った人ねという顔で優希に責め立てられた。
「もうっ。いそがしいのはわかってるんだけど、キメるところはキメてもらわないとっ」
「そ、そうだな……」
「ピアノばんそうのさいしゅうのチェック、明日できる? シュウ先生には、いってあるんだけど?」
「確認しときます……」
「おねがいね?」
「はい……」
どうなっているのだろうか。優希がしっかりし過ぎてきたような気がする。ムクが側に居るので、いつでも保護者がついているようなもので、安心できるのはあるのだろうが、それにしてもと思う。
そんな話を夜、優希が寝てから両親とした。
高耶としては、本当に久しぶりの団欒だ。
「本当にねえ。優希ちゃんったら、どんどんお姉さんになっちゃって」
「やっぱり、しっかりし過ぎだよね!? 天才か!? って思ってはいたけど、成長が凄いんだけど!?」
「珀君達がいるとは言っても、手もかからないしねえ」
「普通の親は、宿題やった? とか、テレビばかり見てないで勉強しなさいと言うらしいじゃない? そんなのこと僕、言ったことないよ?」
「……宿題やる時間とか、しっかり決めてるようです……」
習い事によって、時間などがズレるので、曜日によって決めているようだ。それも、可奈や美由と一緒にだ。彼女達も最近はほとんど手が掛からないだろう。
時間管理も出来る一年生とは恐れ入る。
「いいんだよ? きちんとやれるんならね? けど、ここまで手を掛けられないと、もう放任と同じじゃない? とか思ったりっ」
「私も全然、お母さん出来てないんだけど!?」
「僕もお父さんしたいんだよ!?」
「……」
何の焦りか知らないが、二人としては落ち着かないらしい。
「高耶もよ! もっと何かしてほしいことないの!?」
「そうだよ! 高耶くん、お父さんとしてのお仕事させてよ! もちろん、将也兄さんみたいにはいかないだろうけど! 何かないの!?」
予想外の所で流れ弾が来た。
「……と、特には……」
高耶の実父の将也を、樹は実の兄以上に尊敬している。たった一日の邂逅ではあったが、未だにその時の事は忘れることなく強く彼の心に残っているらしい。
そこで思い出した。というように、お茶を淹れなおしていた珀豪が口を挟む。
《そういえば主よ。瑠璃から伝言は聞いたか?》
「ん? いや、瑠璃とは会ってない。何かあったのか?」
《ふむ。なんでも、天界と地界で協議が行われたらしい。将也殿を主の式神としてはどうかと》
「……は?」
死後の偉人の魂を召喚して、式神とすること、使役することはそれなりに過去、例がある。しかし、霊の、魂の管理に関係があるため、本来はあまり推奨されていない。
いわゆる、隷属という形になってしまう恐れがあるのだ。死した後、そうした扱いを受けるということが、よくないのは今の時代の者ならば誰もが分かっている。
よって、仮に出来たとしても印象が良くない。その上、かなりの力を持った者でなければ、召喚の折に魂に負担がかかり、人形のようになってしまう。
未熟な者が手を出せば、魂を変質させてしまうということで、表向き禁止されたのだ。
天界や地界から警告が来たというのもある。こちらで勝手に召喚できないよう、制限も掛けられたようだ。だから、今は天界や地界からの推薦がなければまず実現しない。それもかなり稀ではある。
その協議が今行われていると言う。
《将也殿の霊力も消化しなければ、どのみち次へ行けぬし、それならばと白羽の矢が立っようだ。半分は、主への好感度稼ぎだろうが……そろそろ結果が出ているのではないか?》
「……瑠璃を喚ぼう……」
そして、瑠璃を喚んだ。
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