第343話 悪ガキの天敵かもしれない
高耶は立ち上がり、シャワー室の扉の前に来る。
「これをこう、開けるだろ?」
「……ああ……」
何の変哲もないドア。そして、シャワー室だ。真っ白な壁が美しい。
ドアを一旦閉めて、一拍。
そして、ドアを開けると、ドアの中の景色が変わる。
「……は?」
「昨日使った会場じゃんっ!?」
「え? シャワー室だよな? どういうこと!?」
槇と満、嶺が駆け寄り、そろそろと中を覗き込んで確認する。淡い灯りだけのついた昨日の会場。その裏に通じるドアに繋げていた。
そして、彰彦がクワッと目を見開いて高耶に掴み掛かる。一気に色々と振り切ったようだ。
「ど◯でもドアだと!? なぜピンクじゃない!? お約束と見た目は守るべきだ!!」
「いや……ただ繋げただけだから……そのドアだとは認めていない……」
高耶はあまりにも必死な彰彦から顔を背ける。
「そう見えるのならばそうなのだよ!!」
「……そう言われても……」
食ってかかる彰彦を止めることなく、掴まれたままだ。こうなった彰彦は落ち着くまで時間がかかる。発散させた方が良いだろうと判断した。
俊哉もそうで、ニヤニヤと笑いながら見ているだけだった。その向かいに座る時島は微笑ましく騒ぐ様子を見ながらお茶を啜っている。
「まあ、あれは反則だからなあ」
時島がしみじみとすれば、これに俊哉も頷いた。
「驚くのも分かるんだよな〜。優希ちゃんくらいの子だと、すぐに順応すんだけど。俺らも年取ったんだな〜って実感するわ」
「年を取ると、こういったことを受け入れ難くなるからなあ。固定観念は怖い……」
「いや、これは固定されててもしょうがなくね? ドアは隣りの部屋に行くだけにしとこうよ」
槇達は、大分受け入れたのか、ドアを行き来して遊んでいる。幼い子どものようだ。
彰彦は高耶を座らせて、こう言うことはできるのか、こう言うことはどうだと、どこから取り出したのか、いつの間にか持っていた革のノートを手に、何やら力説している。
「はははっ。そう言う和泉はどうだったんだ?」
「あ〜、俺ん時は最初、ドアじゃなくおやつの棚だった。教授の部屋の棚を高耶の家の棚に繋げてたんすよ。何で教授の棚のおやつを高耶が用意してんのかと……まあ、めっちゃ興奮したっ!」
「だろうな」
想像できたと時島は笑った。
そこで、ようやく槇達が落ち着いたらしい。
「高耶……これ、すげえけど……もしかして……」
チラリと高耶の前でノートに何やら真剣に書き出している彰彦を見ながら、槇が尋ねた。
「これなら、胡散臭い霊能者ってのにはならないだろ?」
「ああ。まあ、現実を受け止め切れるかは別だと思うんだが……胡散臭いってのはなくなると思う」
口だけでは嘘だと判じられる。だが、実際にあり得ないことを見せてしまえば、あり得ないことも出来る人だと信じられやすくなるだろうというわけだ。
これに嶺が口を挟んだ。
「けど、これって高耶の行った事のない場所も大丈夫なん? 槇の家に行ったことないだろ? こう言うのって、一度行った所って制限ありそう」
「そうだな。一度行った場所しか無理だ。けど、槇の家なら行った事あるぞ?」
「え?」
「あったか?」
「槇の家に?」
「ああ。正確には庭だけど」
槇本人も、満も嶺もそれに思い当たらないらしい。高耶とは一緒に遊ぶなんてことはなかったのだから仕方がない。故意に意地悪でハブっていたのだから。
しかし、俊哉と彰彦は、その時のことを思い出していた。
「あ〜、あるな」
「あったな」
「いつ……」
これに俊哉と彰彦がそれぞれ答える。
「新しいコンテナを見せてやるって無理やり」
「高耶と一緒に閉じ込められた」
「自分たちは遊びに行ってな」
「「「……」」」
さっと顔色を悪くする槇達。あの頃は本当に悪ガキだった。
そんなことは気にせず、彰彦と俊哉は思い出していく。
「少ししてから俊哉が開けてくれたんだっけ」
「高耶と宿題するつもりだったし」
「あれで、暗闇の中でもそれなりに見えるように訓練できた。有意義な時間であったわ」
「音読、あの中で終わらせたんだろ? 良い感じに響いて良かったとか言ってたよな〜」
小学生の頃から、彰彦が独特の感性の持ち主だったこともあり、高耶と一緒だと特に子どもらしくない子どもだった。
そして、やる事が独特だった。
「演劇っぽくやってみたのが楽しかったのだよ。今ならもっと上手くやれると確信しているっ」
「いいな〜、やりたかった。高耶、優希ちゃんにやってやったら?」
「……音読は珀豪とやってる。抑揚もプロ並みだ。今更入れない……父さんがこの前、優希に下手クソって言われて撃沈してた」
「それはキツイわ……俺でも撃沈される……」
「「「……」」」
良い思い出として語られているが、槇達は座り込んで頭を下げた。
「悪かったっ」
「「ごめんなさいっ」」
「「「あ〜……」」」
綺麗な土下座だった。それに、高耶達は今更どうしろとと顔を見合わせる。
時島はずっと、口を押さえて目を逸らし、肩を震わせていた。
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