第273話 やりたいこと

その後の食事会は、高耶にとっては散々というか、とても疲れるものになった。


寿園の上映会の影響か、悪魔のクフィや天使はもちろんだが、キルティスやイスティア、エルラントも気分良く高耶の自慢話を始めた。


これに孫(?)バカの瑶迦が加わり、美咲と樹が興奮気味にそれを聞きせがむ。大人達がお酒も飲まずに盛り上がった。


息子大好きというのを恥ずかしがりもせずに全面に出した美咲と樹は、クフィ達にも問題なく受け入れられ、そこは良かったと安心した。


玻璃と瑠璃も家族に受け入れられた。玻璃は優希や可奈、美由を妹と認定したようで、魅惑的な微笑みを始終浮かべていた。そんな優希達込みで、瑠璃は愛おしそうに見つめ、隙あれば写真を撮りまくっていた。


そして、実の父である将也の存在だが、これも良い方に進んだのだと思う。


《君が再婚相手だね。美咲のこと、よろしく頼むよ》

「っ、は、はい!」


樹は、将也にカッコいいお兄さん的な印象を受けたらしく、ギクシャクすることはなかった。だが、妻は違う。


「ちょっ、何そこで完結しようとしてるのよ! 将也あんた! ちょっとあそこで一時間くらい逆立ちしてきなさい!!」

《あそこで!? 外じゃん!》


それも日が落ち始めた頃。もう三十分もしない内に真っ暗になる。


「外よ。文句ある?」

《ないです! 一時間、がんばります!》

「……み、美咲さん……?」

「……母さん……」

「ふわあ……お母さんつよいね……」


将也は、それほど大柄ではないが、武闘家としての迫力はある。口は軽いし、楽天的だが、それでも感じる強者の気配というのはあるのだ。


そんな彼を反省させるというのは、さすがは元妻だと皆が感心した。因みに、高耶の映像の中で将也が来た事の詳細は分かったため、感動の再会はなかった。落ち着いて再会となって、いきなりコレである。


だが、高耶としては、この二人らしいなと思った。正座慣れしている将也に反省させるには、寂しい場所で逆立ちが一番だと美咲が昔考えたものだったのだ。


過去に多かったのは、壁を向いてリビングの端でというものだったなと思い出す。なんだか、これがとても懐かしいと思えてしまった。


その後、修と連弾したり、優希達とダンスを踊ったりと忙しくも楽しんだが、それがまた高耶の新たな一面を知れたと、大袈裟に喜ばれる。


珀豪達、式は自慢げに、満足顔をしていた。


そんな中、デキる式達は、寿園が隙を見て上映会をした映像を配信しようとした所を慌てて止めたりもしていた。


結局はDVDに焼いて配っていたので、完全には止められてはいなかったが、そこは許す。ただし、賄賂としてこれを受け取っているのを知り、頭を抱えたのは仕方がない。


彼らも当然、主である高耶が大好きである。


そうして、長い一日が終わった。


◆ ◆ ◆


ようやく日常が戻って来た。


嫌だ嫌だと憂鬱に思っていたことも、時が経てば終わるのだと、改めて実感する。


祝日の月曜日も目一杯楽しんでリフレッシュした家族達は、気分も新たに週明けのスタートを切ろうとしていた。


「ねえねえ、高耶君。僕にも武術ってできるかな?」

「え? はあ、もちろんです。どうしました?」

「いやあ、優希も統二君に教わってやってるし、そのっ……あんな凄いことできる息子を持つ父親としては、護身術ぐらいは知っておきたいと言うか……っ」


将也とも楽しそうに話をして、最後の方は『お兄さん』と呼んで慕っていた樹だ。心境の変化があったらしい。


因みに、将也が霊界に戻るとなって、一番別れを惜しんで泣いたのが樹だ。美咲が『え?』となっていた。美咲のあの表情は恐らく、将也に樹が取られたという衝撃からきたものだ。


「……優希と一緒にやってみたらどうですか?」

「っ、いいのかな!? ゆ、優希、一緒にいい?」

「いいよ~。どっちが早くつよくなるかきょうそうね?」

「うん! 統二君もいい?」

「はい。その……美咲お母さんもどうですか?」


空気の読める統二だ。先ほどから、ソワソワしている美咲の様子にも気付いていた。


「わ、私もいいのかしら……で、でも、家族みんなでお稽古とか……なんかいいわねっ。それと、私……ダンスできるようになりたいわっ。また集まったりするかもしれないでしょう? あんなステキな魔女さんや悪魔さん達とダンスが出来たら絶対に楽しいわ! だから、仕事の調整してみるわねっ」

「僕も! あとは、高耶君と連弾良いな~って」

「ズルいわ! それは私もやりたい!」

「……」


ダラダラと仕事をする人たちではないが、美咲は将也が亡くなってから、仕事に逃げるようになった。そのまま今までなんとなく続けていたため、遅くなることも多かったが、これで仕事量の調節をするようになるだろう。良いきっかけになった。


「とりあえず、日程の調整をしてみたら良いんじゃないか?」

「「そうする!」」


美咲も樹も、とても明るくなったなとしみじみ思った。


「そういえば兄さん、修さんに何をお願いされていたんですか?」

「ん? ああ、冬のコンサートで一緒に演奏しないかって誘われたんだ」

「っ、コンサートで!?」

「「なにそれ!!」」


改めて一緒に演奏したり、高耶のピアノを聞いて、修は思ったらしい。冬にある修のコンサートで、高耶を友人として、父親の大事な弟子として紹介したいと言われたのだ。


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