第267話 立派な戦闘バカです

目を覚ました秀一は、最初の内は今自分がどこに居るのかもすぐには分からなかった。精神を削られるというのは、それだけダメージのあることなのだ。


しばらくして、ふと近付いて来る勇一の存在を認識する。


「……勇一……?」


ここのところ、ほとんど顔を合わせることもなかった息子。雰囲気がガラリと変わったのはいつだっただろうかとふと考える。


「気分はどうです?」

「あ、ああ……少し呆っとするが……っ」


部屋を見回していて、ふと目を留めたのは、寝ている者に何か術を施す男。その男に見覚えがあった。


「ッ、な、なんでっ、なんであいつがっ!! は、離れろ! 何をしている!!」

「父上っ。将也殿は、充雪様によって今回の治療をするために呼ばれて来てくださったのです。失礼なことはやめてください!」

「っ、なっ、なんっ、お前っ……」


勇一が、反発したというのが、秀一には何よりも衝撃だった。そこに、更に統二が振り返って、呆れた表情で吐き捨てる。


「勝てないからって、卑怯な手で消した相手に助けられた気分はどうです? さっさと頭を下げるべきでしょうに。まったく、人間の出来の悪さは、こうして分かるんですね」


いい加減、統二も言いたいことが溜まっていたのだ。だが、秀一は信じられなかった。


「っ、と、統二っ、おまっ、お前っ」

「なんですか? せめて人らしく、きちんと喋ってくれません? あと、あなた方が手も足も出ず、存在さえ認識出来なかった敵と今、高耶兄さんが遊んでますけど」

「は……?」


外へ目を向けた秀一は、見たこともない武器で打ち合っている高耶と黒っぽい人影に釘付けになった。


「なに……が……」


槍術とも違う。けれど、洗練された技や動きであることはわかった。そこは武術を極める本家の者だ。他の者たちも、目を覚ました者は全て、撃ち合う音に引き寄せられるようにして、それに目を留めた。


「兄さん楽しそう……」

《おおっ、こう、ウズウズするなあっ。おっ、そろそろかっ》

「奥義ですか?」

《ああ。見てろ》


空気が変わった。結界で区切られているのに、それが肌で分かった。


「こい」

《……》


高耶がそれを受ける。


「っ!」

《……》


上からではなく、下から掬い上げるような一撃。刃の付け根の所に武器が絡め取られる。


「っ、なるっ」


武器を弾き飛ばされた高耶は、成程と納得しながら、冷静に次の動きを予想する。


振り上げる勢いのまま、流れるように突き出されたのは、刃の付いた側ではなく柄の下の石突いしつき


「っ!」


それをなんとか躱し、距離を取ろうとすると、そのまま今度は刃の方が振り下ろされる。


「っ、くっ」


受け身をとって、なんとかその場から離れた。そこで技は終了のようだ。


「はあ……結構焦ったな……よし。今度は俺だなっ」


明らかに追い詰められていたというのに、よしやるぞと高耶はもう切り替える。


その間、誰もが息を詰めていた。


「っ、に、兄さん……びっくりした……っ」

《はっはっはっ。いやあ、見応えある技だったなあっ》

「セッちゃん……これ、笑うとこ?」

「これは……心臓に悪いわあ」


蓮次郎と焔泉も、半ば立ち上がってしまっていた。ドキドキが治らないと胸を押さえている。


一方、勇一と秀一、他の秘伝家の者たちは、言葉もなく動きを止めていた。


そんな外野のことなど、高耶は気にしていない。集中して利き手を前に開いて突き出すと、そこに、飛ばされたはずの霊刀が現れる。


そして、構えると、高耶は一気に大きく踏み込んだ。


「っ、本当にさっきの技を?」


統二が目を丸くする。


《まあ、見とけ。これが秘伝の当主だ》


先ほど高耶に向かって繰り出された技が、お手本のように洗練され、相手に仕掛けられる。


違うのは、最後の一撃が、過たずに相手を切り裂いたことだ。


《っ……》


悲鳴のような、小さな音を出して、それは形を失っていく。


高耶はそこに小さな壺を投げた。すると、その中に吸い込まれ、コトンと地面に壺が置かれるように落ちきる頃には、黒い風は全て壺の中に消えていた。


「蓋して完了と。ありがとうございましたっ」


カポっと蓋をして術で縛ると、まるで蛸壺のようなそれを高耶は片手で掴んで満足げに笑った。


《おおっ。良い技が手に入ったなあ》

「いいよなっ。やっぱカッコいいわ。武器を取り上げた後に容赦ない二撃とか、アレはすごい」

《だなっ。容赦ないのがまたいい!》

「いやあ、マジでひっさびさに燃えたわ」

《だが、あれはタッパが必要だなあ》

「あ~、ちょい肩の筋肉がいるわ」


そんな会話を楽しそうにする高耶と充雪を見て、蓮次郎と焔泉は呆れていた。


「高耶君も、立派な武闘家なんだね……」

「そうは見えんのになあ……戦闘バカと呼ばれても仕方ないで……」


秘伝家の本来の姿はコレかなと、見直す二人だった。


一方、秀一たちはといえば、未だ目を丸くしたまま、動けずにいた。


そんな中、全ての治療を終えた将也が高耶へ近付いて来たのだ。


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