第258話 親の気持ち

食事会のある日曜日の朝。


美咲や樹は起きてからずっとソワソワしていた。


「なんだか、ドキドキしてきたわ……息子の仕事仲間や友達との食事会なんて……どうしましょう……っ」

「デキる息子の父親として見られるんだよね……怖いなあ……」


父母の心配は、分からなくもない。


「アレよ……子どもの結婚式に参加する親の気持ち……」

「そうだよっ。それだっ。す、スピーチとかはやらなくていいよね!? 結婚式じゃないもんね!? あっ、た、高耶君の彼女とか紹介されたり……」

「高耶が彼女……」


『あるの? あったりするの?』と、少しの期待と不安を込めた目を向けてきた。


「……ねえから……」

「そ、そうっ……それはそれで残念なような……」

「高耶君が選んだ人なら、僕は文句言わないからねっ」

「……当分ないので、大丈夫です……」


緊張のし過ぎか、テンションがおかしい。


そんな中、優希はそろそろ来るという可奈と美由を、玄関先で待っていた。


「優希。そんな所にいると、寒いぞ」

「だって、もうすぐくるもん。ねえ、お兄ちゃん。ドレス、なにいろがいい?」

「可奈ちゃん達と決めるんだろ?」

「うん。けど、お兄ちゃん、ダンスおどってくれるでしょ?」

「……ダンス……」


なんだそれと高耶は思考を停止させる。


「まだちょっとしかおどれないけど、きょう、お兄ちゃんとおどったらいいって、ヨウカ姉がいってた! ルリ先生も、お兄ちゃんならリード? が上手だから、だいじょぶだって。いいきかいだって」


高耶は項垂れるようにして屈み込んだ。


「……マジか……確かに、今日のメンバーなら踊れるのがいるが……」


エルラントはもちろん、イスティアやキルティスも問題なく踊れる。かつての夜会、舞踏会も知っている人たちだ。何より、高耶にダンスを教えたのが彼らだった。


「なにごとも、けいけん! でしょ?」

「……そうだな……」


間違っていない。ただ、先に言っておいて欲しかった。高耶は、一度覚えたことは忘れない。だから、いつでもエルラントにでもあちらの夜会に誘われれば、出られるだけの技術も持っている。


だが、これを知っていたら、誘わなかった者もいた。


「……俊哉とか……迅さんとか、後で煩そうだな……」


二日前、修と月子を誘ったと瑶迦に連絡を入れた時、瑶迦にお願いされたのだ。高耶と仕事でもなんでも、親しくしている人は沢山呼んでほしいと。こんな機会でもないと、こちらに呼べないからと。


そこで急遽、可奈、美由の家族全員に声を掛け、時島や校長の那津も呼ぶ事になった。更に迅や不動産屋の稲船陽、彼と修の共通の友人である野木崎仁、いづきやその孫である瀬良智世と誠、雛柏教授などにも声をかけたのだ。その全員が参加すると手を挙げた。


食事会は夕方から夜にかけて。そのあと、泊まって行っても良い。それらを見越して、次の月曜が祝日である日を選んだらしい。


見て回れる所も沢山あるので、今日も、来られるなら朝からで良いと話してある。可奈、美由の家族は、それで早く来ると約束しているようだ。


そして時刻は九時。可奈、美由の家族がやって来た。


「おはようございま~す。今日はよろしくお願いします!」

「お邪魔します」


美奈深と由香理が元気にやって来た。


「おはようございます。突然誘ってすみませんでした」


そう伝えたのは、彼女たちの夫である智紀ともき浩司ひろしにだ。休みの日はゴルフに行ったりすると聞いているので、気になっていた。


「そんなっ。最近は出来ればこっちに来たいな~と思ってたんだよ」

「けど、そうすると、社長にバレるだろう? ものすごい葛藤がね……」

「ああ……陽さんにバレないようにしてもらっていましたね……」


ゴルフはように誘われてということもあったのだろう。断ってこちらに来ているなんてバレたらマズイ。


「ありがとうございます。ただ……今回、陽さんも誘ってるんです。なので……」

「「……やばい……?」」

「いや、あの……俺から伝えますから」

「「お願いします!!」」


抜け駆けしていたなんて知られたらと、二人は泣きそうな顔になった。


そこに、まさにこのタイミングで、陽と仁、修と月子がやって来たのだ。


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