第246話 玻璃のデビュー戦?

玻璃の姿を見た時、天使も悪魔も動きを止めた。だが、それは一瞬だ。今は力を抜ける時ではないと思い出し、チラチラと玻璃を見ながら集中、集中と暗示をかける。


この状態で分かるように、彼らは揃って動揺していた。当然といえば当然だろう。上位の存在に生まれ変わった成功例など、実際目にするのは初めてだったのだ。そうしなければ上位の存在にはなれないとわかってはいても、本当にというのが信じられなかった。


高耶が契約した者が、上位の存在に生まれ変わったとは聞いていても、顔を合わせたことはない。今回のように玻璃が注目されることを、瑠璃が嫌がったのだ。


瑠璃も、上司である天使に話すことさえ避けていた。それだけ瑠璃にとって玻璃は大事な存在だったということだ。


だが、玻璃自身は、変わろうとしていた。瑠璃にいつまでも甘えていてはいけないと思っているのを、高耶は感じていたのだ。だからこそ、今回、玻璃を行かせた。


《あ……あの……っ、こんにちは……っ》


人慣れしていない玻璃が、真っ先にこの場で頭に浮かんだのは、高耶にかつて言われたことのある言葉。『先ずは挨拶』だった。



悶えたのは天使達だ。可愛いは正義というのは真実だったと証明された瞬間だった。



悪魔達は、クティさえも虜になっていた。ちゃんと挨拶を返す。これに、玻璃は嬉しそうに笑った。


《っ……お姉様っ、あ、挨拶、返してもらえた》

《そうねっ。よかったわねっ》

《うん……っ》


これにも悶える一同。因みに、イスティア、キルティス、エルラントは耐性があるらしく、まるで可愛い孫娘の社交デビューを見るような目で玻璃を見ていた。


《さあ、玻璃。お仕事をしましょう》

《ん……頑張る……》


両手を握り、ぐっと気合いを入れる様子さえも可愛らしい玻璃。それにデレデレしながらも、慣れてきたのか、力は抜かずに現状を維持する天使と悪魔達。


そんな彼らに、玻璃は一歩ずつゆっくりと歩み寄っていく。


そして、手のひらに握っていた、ゆづきから借り受けた指輪を見せるように、右手で摘んで頭の上に掲げた。


すると、クティ達がびくりと鎧の方を見る。


《手応えが……変わった?》

《変わりましたわね……何かに反応……あの指輪?》


核を引き抜こうとすることで、受けていた抵抗力が少し弱まったのだ。


《これ……鎧と同じ……持ち主……彼らの契約者だった》

「え、そんな指輪が?」

「すごいっ。よく見つけたわねっ」


イスティアとキルティスは、術式を渡しただけで、鎧の製作には関わっていない。よって、その指輪についても知らなかった。


《ここに……本当の願いがある……知りたくない?》


これは、次元の狭間にある核となった者へ語りかけている。すると、明らかに先程よりも抵抗力が弱まったようだ。


《行ける! タイミングを合わせるよ》

《わかりましたわ。あなた達もいいわね》

《こっちもいいね。カウント三からいくよ!》

《ええ》

《三、二、一、ゼロ!》


それぞれの鎧と繋がっていた六体の中級の天使と悪魔が姿を現す。この瞬間、鎧との繋がりが消え、カラカラと鎧がバラけて地面に散乱した。


引き抜かれた六体の天使と悪魔は、呆けたように指輪を見つめる。彼らは、指輪に込められていた契約者の本当の願いを受け取ったのだ。


その時点で、瑠璃がこの場から姿を消していることには、誰も気付かなかった。


玻璃は、指輪を持ったまま、彼らに近付いていく。


《もう……泣いてもいいよ》


その言葉を待っていたかのように、彼らは静かに涙を流した。


》》》》


涙する彼らからは、悔いる感情が感じられた。主人を失くしたことを受け入れがたく思っていることも。そして、何よりもっと主人の力になりたかったという思いが溢れていた。


けれど、そんな思いとは裏腹に、彼らの体はボロボロと崩れ始めている。力を使い過ぎたのだろう。無理に狭間に留まっていたのも良くなかった。


天使も悪魔も、精神の部分が存在のほとんどを占めている。その崩壊が始まれば、体の維持はできない。


そんな彼らに、玻璃は固有の癒しの力を発動させる。それは、上位の天使でさえ使える者がほとんどいない精神回復の力だった。当然、天使達は驚く。


《これはっ……そんなっ。悪魔である彼女が使えるなんて……っ》


一方、クティは感心しながらも確信を得ていた。


《なるほどね……悪魔も天使も、根本は同じってことかな》


これを聞いた天使は、驚きながらも納得していく。


《え……ああ……そうなのですね……》


目の前で癒されていく天使と悪魔。不思議な光景だ。同じ存在だからこそ、同じ癒しの術で癒されていく。それが答えだった。


そこに、高耶がやって来た。


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