第244話 鍵を握るのは

高耶は、土地神の所に向かい、慎重に保護をかけていく。ただし、それは全て土地神を通して行われていた。


土地を保護するためには、術者達が力を土地に流していく必要がある。その場合、土地神を通してなんて面倒なことはしない。しかし、高耶の場合はどうしてもやらなくてはならなかった。


《あ~、一度私を通す意味が分かったよ。君一人でできちゃうんだね》

「……はい……」


何十人もの術者を、土地の要所要所に配置し、力を満たしていくべき所を、高耶はたった一人でできてしまうのだ。


《これ、私を通さずにやった場合、下手すると土地神の交代になりそうだね》

「……はい……十分に気をつけます……」


複数人によって土地の力を保護するため、土地神の力を凌駕したとしても、次代の土地神だと判断されることはない。


《うん。私も君には敵わないから、お願いするね》

「はい……それはもう、慎重にやらせていただきます」


これらの事情から、これが一番高耶だけでやることになった場合に不安だった。少しでも力加減を間違えると、問答無用で土地神として縛られることになるところだったのだから、泣きついてでも応援を必要としたのだ。


《それにしても……あちらは凄いことになっているね》

「ええ。ご気分は変わりありませんか?」

《ん? ああ。そうか。だから君がここまで土地の保護に力を割いてるんだね。大丈夫だよ。異界化の兆候もない》

「ほっとしました。あちらはこの世界のツートップが指揮を取っていますから、心配はないと思いますが……」


あれほど頼もしい味方もないだろう。高耶が慎重になる理由の半分は、彼らの力が土地に流れ込まないようにするためでもある。土地神になる危険性を持つのは、あの二人も同じだ。


《あ、始まったみたいだよ》


距離があって、目で見ることはできないが、なんとなく感じ取ることはできる。余裕がある証拠だ。


要は、叩きながらの説得。天使も悪魔も、それぞれの不始末をつけるというもの。できれば、上位の存在に生まれ変わらせてやりたいと双方思っているはずだ。


しばらく、激しくやり合っているのが分かった。しかし、中々決着がつかないようだ。


《ん~、なんか邪魔してるね》

「邪魔……」


そこに、充雪が飛んできた。


「どうしたんだ? じいさん」

《おう。エルのやつが、お前の知恵を借りてきてくれと言うんでな》

「知恵って言っても……そもそも、どうなってんだ?」


なんとなく気配で探れるだけの状態では、何が問題になっているのかが分からない。確かにそうかと充雪も気付いたらしい。


《悪ぃ。それがなあ。向こう側で鬼渡がなんか唆したらしくてな。こっちに引っこ抜けねえんだよ。説得自体、聞きやしねえ》


あの鎧に紐付けされた悪魔と天使は、鬼渡の口車に乗せられた状態。はじめの在り方さえ変質させたのだ。簡単には話を聞かないだろう。


更に契約者の恨みと妄執がこびりついてしまっていては、耳を塞がれているようなものだ。


「そうなると……何かで注意を引くしかないか……」


耳がダメなら、視覚、それもダメなら感覚に訴えるしかない。


「何か……力のあるもの……っ、あ」


一つだけ、思い当たった。


「【瑠璃】、【玻璃】」

《はい……》

《……はい……?》


高耶はこれまで、悪魔の気配がある所に玻璃を不用意に呼ぶことをしなかった。いくら上位の存在になったとはいえ、悪魔にとってもイレギュラーな存在であることには変わりない。


そして、ここには多くの祓魔師エクソシスト達が居る。彼らにとっては、悪魔は悪魔。存在さえ許せないものだ。だから、瑠璃もこの場に玻璃を喚び出すことには、不満なようだ。


「すまん。嫌なのはわかるが、協力してくれ。今頼めるのは、お前たち二人しかいない」

《なんでも……するっ。私は大丈夫》

《玻璃っ……もちろん、わたくしにも、何でもお任せください!》


玻璃はいつも、他の高耶の式達のように役に立ちたいと思ってきた。何より、悪魔や天使を気にしているのは、瑠璃と高耶の方だ。玻璃をなるべく傷付けないようにと、必要以上に気を回してきた。


それが玻璃にとっては嫌だったのだ。


いづきの店に喚んだ時の、頼りにされた時の嬉しそうな顔を高耶は思い出した。いつだって、契約した式達は、高耶の力になりたいと願ってくれた。だから、玻璃もそうだったのだと、そう気付いた。


彼女は弱くはない。寧ろ、上位悪魔の中でも内包する力は強いはずだ。それならば、認められるような機会を作ってやるのが主人の役目だろう。


「助かる。なら、瑠璃、玻璃、いづきさんの持っていた指輪を借りてきてくれ。アレが、今回の鍵だ」

《わかりました》

《あの指輪……うん……使えるように調整する》

「ああ。頼んだ」


二人に任せれば大丈夫だと、高耶は確信しながら見送った。


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