第226話 家族サービスデーらしい
いづきの店を辞してから、その日の内に連盟で話し合いの場を設け、こちらに向かっている鎧の捕獲は連盟で請け負うということになった。
翌日には日本にある鎧全てを集めるために、各地に術者達を派遣。集まってきたものは、余分に憑いてしまっている悪魔を瑠璃に払ってもらい、その後封印していく。
同じように、あちらにある鎧も集めるようにお願いし、同じ処理をした後、選抜された術師達と共に日本に来る事になる。
さすがにこれだけのことをするのには数日かかる。その間の高耶はといえば、無理やりリフレッシュ休暇を取らされていた。
蓮次郎からすれば、いづきの店で鎧の在処を資料としてまとめたことだけでも、充分な働きといえるということだった。
『高耶くんは当主なんだから、もっと下を使わないとね』
そう言って、高耶の許可も出たからと、嬉々として秘伝の者たちを走らせ始めた。勇一も同意したため、統二も巻き込み、一族を駆り出していった。
「落ち着かねえんだけど……」
皆が働いているというのに、休むというのは気が引ける。そう思っていれば、土日にかかったため、必然的に高耶は家族たちに捕まった。
「お兄ちゃん! 今日は、かぞくサービスデーしてもらうんだからね! おしごとのおはなしもダメ!」
「……はい……」
今日は朝からお嬢様はお休みらしい。資料整理でもしようかと朝食後に部屋に篭ろうとした所、小さな手足を目一杯広げて、優希が目の前に立ちはだかったのだ。
そこから、笑顔の父母に両脇を固められ、優希に先導されて半ば引きずられるように瑶迦の屋敷に連行された。
ここで瑶迦に捕まり、着替えから髪のセットまでされた。そして、ご機嫌な瑶迦と朝のお茶会が始まる。一方、父母は優希をお茶会の席に残してどこかへ消えた。
そうこうしていると、俊哉と優希の友人である可奈と美由の家族が遊びに来たのだ。どうやら、父母は、彼らを出迎えに行っていたらしい。
「高耶くん! 久しぶり~!」
可奈の母親である美奈深は、テンション高く手を振ってきた。その隣にいた由美の母親である由佳理も、笑顔で話しかけてくる。
「本当に久しぶりよね? 相変わらず仕事人間だって、優希ちゃんから聞いてるわよ?」
全く否定できなかった。
「あ~……はい……今日は強制的に、家族サービスデーだそうです……」
「ぷっ。なに? 責められたの? どこのお父さんよっ」
「その内、私達家族と仕事、どっちが大切なの? とか聞かれるわねっ」
「……笑い事じゃないんですが……」
目の前に居る優希が、真面目な顔して頷いたのを見てしまったのだ。きっとその内言われる。
「あははっ。やだもうっ。私も言ってみたいわ」
「いいわね、それ。一度は言ってみたいわね」
チラリと二人が目を向けるのがそれぞれの旦那である智紀と浩司だった。二人は学生時代からバイトも転々とし、社会人になってからも転職を繰り返した。少しでもキツイ仕事となると、すぐに辞めてしまっていたらしい。
ここ数年、ようやくその転職癖が落ち着いた所なのだ。休みはきちんと取れるし、ほとんど定時で上がれる仕事場だ。まさか、逆に不満を持たれるとは二人も思っていなかった。
「俺らが遅く帰って来るようになったら、怒るだろ……」
「言ってみたいだけだよな……?」
「まあね~」
「だって、リアルで言えるとか、楽しそうじゃない」
「ね~」
「ね~」
「……」
「……」
さすが学生時代からの友人。この二つの家族は、一緒に共同生活をしても上手くいきそうだ。
同じことを俊哉も思ったらしい。
「お姉さん達も仲良いけど、旦那さん達もいいんスね。家族ぐるみでとか、いいな~」
これに、美奈深と由佳理は顔を見合わせてからクスクスと笑った。
「俊哉くんも、高耶くんとそうなれるわよ」
「そうそう。お互い結婚して、奥さんが友達同士じゃなくても、それから友達になればいいんだしね」
「高耶と家族ぐるみ……」
「おい……変なこと考えるなよ?」
考え込みはじめた俊哉に、高耶は注意する。こんな時、ロクな答えは出ないと知っている。案の定、おかしな答えを出していた。
「いや、ダメだわ。友達とか無理。だって、俺の奥さんまで高耶に尽くすもん」
「だから、変な妄想するなっ」
「だってさあ。俺の奥さんは綺翔さんじゃん? 百万が一失恋しても、きっと俺が好きになるのは、高耶も大事にする人じゃんか。やばい……俺、嫉妬に狂いそう……高耶を取られる!」
「「「「そっち!?」」」」
「……」
高耶に嫉妬ではなく、奥さんに嫉妬する自分が見えたとか、ごちゃごちゃ言い出したので、高耶はもう気にしないことにした。
「それで優希、今日は何するんだ?」
「これからピクニック。おひるをお花見こうえんでして、おさんぽデート。夕がたに、やがいステージでお兄さまのピアノをききたいです」
「分かった」
「それから、よるはおしろのテラスで星を見ながらディナーをします。そのままおしろにとまって、一日目しゅうりょうです」
「……分かった……」
これが小学一年生かと思うと、将来が怖い。思わず現実を見失って、目が泳いだのは仕方がないだろう。
「お兄さま。ほんとうにおわかりになりましたか?」
「あ、はい……」
お嬢様がお戻りになった。
「では、今日はわたくしとヨウカねえさまを、きちんとエスコートしてくださいね」
「はい……」
これは仕事をしていた方が楽だったんじゃないかと思ったのは秘密だ。
こうして、がっちり、きっちり計画を立てられた休日をなんとかこなしながら過ごした。
そして、一週間後。鎧が全て集まったと連絡がきたのだ。
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