第181話 混ざり合ったもの

当然だが、万全の体制で挑むため、作戦は立てた。


高耶も、全ての式を手元に喚び出していた。この間、優希は瑶迦の所に居てくれる。というか、普通に友達とお泊まり会を開催しているらしい。お母さん方も一緒なので大丈夫だろう。


日が高くなる前。それは始まった。


庭に特大の結界を張り、霊穴からの影響を受けないように何重にもした。とはいえ、広さ的には体育館くらいだろうか。高さもそれくらい取っている。


あとは、どうこの場に鬼を連れてくるかだった。それは、高耶がなんとかすると伝えていたのだ。


「高坊、どないするん? 家、壊さんでええように考えるぅゆうたけど」


焔泉も、建物を壊さずにというのは無理だと思っている。普通はそうだろう。鬼の方も、ふたをしている部分を壊して出てくるはずだ。だが、それをやるとエリーゼにもダメージがいってしまう。何より、改装工事をするとはいっても他人の家だ。壊さずに済むならそうしたい。


「これくらいの距離なら……常盤、黒艶、頼む」

《お任せを》

《承知した》


常盤と黒艶が姿を消す。その場から光るボールと黒いボールが打ち上がり、家にストンと落ちていく。まるでスーパーボールの様。だが、屋根に跳ね返ることなく、それは消えた。


そして、次に見えたのはそのボールにくるくると周りを回転されながら飛んで来た大きなもの。


それが庭に張られた結界をすり抜けて中に落ちた。


ボールになっていた常盤と黒艶が高耶の前に戻ってくる。


《完了しました》

《有無を言わさずにな》

「よくやってくれた。常盤はアレが居た場所の浄化を頼む。黒艶は中の調査を」

《すぐに戻ります》

《じっくり確認してくる》


二人は正反対の言葉を返し、再び姿を消した。


「ど、どないしたら、こんなことができるん?」

「裏技です」

「光と闇やろ?」

「時と空間です」

「……分かった。裏技やな」

「……そうです」


詳しく聞くのを諦めたらしい。高耶としては、焔泉や達喜達には、話しても問題ないと思っているが、この情報は今要らないようだ。


そんな中でも、高耶は警戒していた。黒い繭のようだったそれがうごめき出す。


「気色悪いですね……それに顔……二つあります……」


いつもは飄々ひょうひょうとしている蓮次郎も二つの存在が混ざったような、そんな気持ちの悪いものに眉をひそめていた。


「家守りが……あんな姿に……」


源龍が絶句する。女の顔はみにくくただれ、体はひしゃげているように見える。そして、存在がとても希薄だ。それでも存在しているのは、取り込もうとするもののお陰だろう。


「あれが……鬼……っ」


まるで、ひしゃげた女の体を毛皮のようにして身に纏わり付かせ、立ち上がったのは可愛らしい小さな子ども。その子どもの額には、小さなツノが見てとれる。


《……おマエら……術者か……聖結界……はっ、俺がこんなものに阻まれると思ぉてか》


次第に言葉も堪能になっていく。鬼の声は、どこから響いているのか全く分からない。式達とも違う声音だ。聞き惚れてしまうような、そんな力があった。


高耶以外、聞いたことのないその不思議な声に、一同が少し惚けていると、鬼は術を使って結界を消し飛ばそうとしていた。


「させるか」


いち早く気付いた高耶が、その術を打ち消す。


《ほぉ……これで合ってはいるようだな》

「ちっ」


舌打ちして、高耶は結界の中に入る。黒い炎を警戒していたのだが、出してきたのは黒い氷だった。ほんの小さな一塊。それが鬼の手の上に現れる。そこから、凄まじい冷気が感じられた。


その間に割り込んだのは、清晶だった。


《主様。アレは、霊界の底にある黒氷石だよ。あまり冷気も吸わないで。肺が凍るよ》

《ならば、私がそばに居ります》


天柳が焔を纏った。


空気が少し柔らかくなる。その間、高耶はじっと鬼を観察しながら考えていた。結界を破ろうとした術。それは高耶達の使う陰陽術だった。


「こいつ……こちらの知識を持っているのか」

「っ、芦屋のか!」


焔泉が驚愕する声が響いた。


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