第131話 隠れ家的なやつです
高耶がお姉さん二人に遊ばれている頃。
優希、可奈、美由の三人は珀豪とホテルから十分ほど移動した草原に来ていた。
「こっちこっちっ」
「まって~」
「うわぁ、あそこにキレイなちょうちょがいたよっ」
《優希。後ろを見ながら走ると危ないぞ》
優希に案内されてやってきたのは、雪のような真っ白な小さな花が絨毯になった丘の上。花畑を両脇に見て、綺麗に均されて作られた道を辿る。そして、その中心には大きな大木があり、立派なツリーハウスがあった。
「じゃ~んっ」
「「すごぉい!!」」
木の幹に沿ってぐるりと回るようにして広めに作られている階段。その上にテラス席まで作られた木の家だ。
「ハクちゃんがつくってくれた、ユウキのべんきょうべやなのっ」
「ここでべんきょうするの?」
「いいな~ぁ」
「えへへ。はいって~」
秘密基地が欲しいと言った優希のために作ったツリーハウスで、ここで勉強したら楽しいだろうと言ってお披露目したのだが、それを優希はそのまま受け取ったらしい。
気遣い屋の珀豪らしく、階段には低めの手すりと大人用の手すりが付いており、テラスから落ちないようにきっちりと柵も作って安全対策はバッチリだ。
因みに中にはシャワー室にトイレ、洗面台もある。
高耶が女の子は難しいと常々言っているので、珀豪も育児書などを読み漁った。そこで、一人になる所も必要だというのを見つけ、ならばここにいざという時に家出して来られる場所を作ってしまえという考えで作りあげた。
知らない所に家出されるより良いだろう。ただし立派すぎではある。
「なにこれ~。フワフワじゅうたん?」
「つくえとイスもかわいいっ」
靴を脱いで上がれるようにしたので、絨毯にも拘った珀豪だ。
《その絨毯は、実際に貴族が使うようなものだ。気持ちがいいだろう》
「すごくいいっ」
可奈ちゃんが座り込んで撫で続けていた。
「ねえっ、ちょっとっ、カナちゃんこっちきてっ」
「え?」
美由が先に優希に案内されていたのは、キレイな衝立の向こう。そこには大きなベッドがあった。
「お、オヒメサマのベッド……っ」
「ねっ、すごくない!?」
「いいでしょ~。おひるねもできるのっ」
「すごすぎっ」
三人で転がっても余裕なキングサイズのベッドは、薄桃色の天蓋付きだ。
ひとしきり興奮した三人は、そこで横になって少しの間うたた寝してしまう。それを珀豪が穏やかに見つめていた。
一方、その上の学生組はといえば、釣りがしたいとのことで、大きな湖に向かっていたのだが、その移動手段は歩きではなかった。
「移動にこんなゴルフカート? ってかランドカー? 用意してるとか、もう本当になんでもありじゃん」
それなりにこの世界は広いので、一般的な移動はこれでと提供された乗り物を見て、俊哉は初めて見たと言って興奮していた。
「それも自動運転も可とかすご過ぎ!」
現在はその自動運転になっており、目的地は『
その後ろに乗っているのは統二と拓真だ。拓真は美しい周りの景色に見とれているようで、俊哉の興奮気味な言葉など聞こえていないようだ。なので、付き合っているのは統二だった。
「優希ちゃん達がいますからね。行き先を入力するだけで移動できます。万が一迷子になっても誰かは気付きますけど、そこは頼り切らなくても良いようにというか……」
「お~、まあ、自由に満喫したいもんなっ」
「はい。遠くに行って、戻って来られなくなっても、一応はこれで移動できる三十分圏内には泊まれる小屋や休憩所があります」
「『近くの休憩所』ってのがそれか」
その小屋や休憩所には『呼出』の鐘があり、それを鳴らせば、お世話をしてくれる式が来てくれるので安心だ。
「もちろん、自動運転ですから、寝ていてもあのホテルには戻れますけどね」
「マジで子ども用の対策って感じ?」
「というより、優希ちゃん用の対策です」
「そこは高耶じゃねえんだ?」
「いえ、兄さんの提案なので」
「なるほど~」
そういえば立派なシスコンになってたわと俊哉が納得した。
到着した湖は、大きくて美しかった。
中央に小島があり、キラキラと輝く水晶の山のようなものが生えている。
「すごい……きれいだ……」
先ほどから拓真は明るい表情でいろんなものに見惚れている。心が開いている証拠だ。普段の学校での様子とはまるで違う。
「いいでしょう? あれ、水晶じゃなくて氷なんだ。あそこの中央には氷でできた宮殿があるんだよ?」
「え? 宮殿?」
「うん。あれはすごいよ? 兄さんの水の式神の清晶さんが作ったんだけど、ちょっと凝り過ぎちゃったらしくて……」
最初は塔のようなものをと思っていたらしい。だが、優希にせがまれ、城のようなものになり、あまり高さを出すのもと思い横に広がって宮殿になっていた。
「氷だけど、温度調節をしてて不思議とそんなに寒くないんだ。ベッドとかもあるし、内装は意外と普通でね」
とはいえ、宮殿だ。内装もそれ相応のものになっている。
「今はもう見えないけど、お昼の十二時と夜の十二時に一時間ずつ、あの辺りに小島へ続く道が出来るんだよ」
「……見てみたいな……」
呆れるのではなく、拓真は何にでも興味津々だ。それが統二には自然に見えた。いつも何かに耐えるように見えた拓真を知っているからこそ、とても好ましく映る。
「なら、明日のお昼にね。せっかくなら道を渡って行きたいでしょう? 帰りは別にボートもあるから」
「っ、いいのか?」
「うん。お昼をそこで食べてもいいしね。魚料理がすっごく美味しいんだ」
「その宮殿で?」
「そうだよ? 高級レストランって感じかな。タダだけど」
「はっ、贅沢すぎっ」
そんな話をしている間に、既に俊哉は釣りを始めていた。楽しそうに笑い合う二人からは離れ、俊哉は実の兄のように優しく見守っていたのだ。
しかしその時、その宮殿から俊哉達へ何者かが視線を向けているとは思いもしないのだった。
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