第116話 それも秘伝?

とりあえず呪咀じゅそと魔術の儀式をした場所を清める必要がある。


橋の影まで行って高耶は常盤と天柳を喚んだ。


「常盤。魔術式を壊すから場の浄化を。天柳はにえに使われた遺骸を処理してくれ」

《承知いたしました》

《お任せくださいな》


使用済みとはいえ、術式は残っている。それを高耶は分解していく。


そこで常盤が光によって場を清める。ここは橋の下だ。影の中には良くないものも沢山潜んでおり、更には大小のゴミによってそれらが隠れられる場所にもなっていた。


くまなく照らして浄化していく一方で天柳は地面の中に埋められている遺骸を浄化の白金の焔で焼き尽くして灰にする。


魔術の気配が消えると、充雪へ声をかけた。


「じいさん。水神に説明をしてきてくれ」

《おうよ》


充雪が飛んで行って川の中央辺りで水の中に消えた。霊の状態なので溺れることはない。


そうして、高耶が作業している間に電話をしていた源龍が戻ってくる。


「清掃部隊の手配が完了したよ。夕方の涼しくなってから来てもらうことになる」

「あの部隊、手が空いてたんですか?」

「うん。というか、高耶君ってあまり彼らに頼んでないの?」


唐突な質問に高耶は目を瞬く。


「え? ええ。よく忙しいからと断られたんで、後日対応してもらうように現場保管したり、自分で出来る時は自分でしてました」

「……なるほど……だからあの確認か……」

「何かあったんですか?」


統二も気になったらしく、形の良い眉をひそめる源龍を見る。


「いや、高耶君が呪術の処理はしたから問題はないと思うけどって事情説明していたんだ。そうしたら、すごい勢いで『秘伝のご当主がそこにいらっしゃるのですか! だったら今すぐ行きます!!』って言うんだ。けど、ちゃんと夕方にしてもらったよ。日射病に気をつけるよう注意したのは首領会だしね」


これから暑くなる時間だ。最近は実働部隊に、日射病に気をつけるよう、首領達が注意していた。昼間動き回る彼らには気を付けてもらうよう高耶が去年進言したのだ。


統二はその通達については知らないが、確かにと頷く。


「今日は暑くなりますからね。夕方でも最近は暑いですし……部活とかでも日射病には気をつけてるみたいです」

「僕達の頃は部活中に水を飲むと怒られたものだけどね」


しみじみと時代で変わるものだと感じ入る源龍。


「高耶君が言わなかったら、結構キツかったんじゃないかな。僕らは基本、夜動くしね。そこには気づかないよ。だからかな。彼ら、お礼を言いたいのかも」

「兄さんらしいですっ」


あまり派手に動き回らない首領メンバーでこれに気付けるのは高耶と達喜ぐらいだろう。進言してくれた高耶に感謝しているのかもしれないなと彼らの思いを察する。


「って、高耶君何してるの?」


そこで源龍は高耶の動きが気になり尋ねる。そこにはいつの間にか常盤や天柳に代わり清晶が顕現していた。


「掃除です。動かしやすいように泥だけは軽く落としておこうと思いまして。それと出来るだけ引き上げを」


清晶が高圧洗浄機かと思われるほどの勢いでゴミを洗浄し、高耶は袖とズボンをまくり上げて何かを引き上げようとしていた。


「ん? あ、自転車だったか」

「……高耶君。君……もしかしてこれまでの現場でもそうやって……」

「兄さん……それ、兄さんがやることじゃないですよ……っ、というか、なんでそんな風にズルズルと色々一気に引き上げられるんですかっ!?」


呆れる源龍と統二は、次第に目を見開いていく。高耶は自転車に続いて長いビニールやトタンやカバンなど、絡まってもいないのに永遠に現れるのではないかというほどの量を引き上げていくのだ。


「なんでそれ繋がってるの? 財布やカバンとか、引っ張ってこれるものじゃないよね?」


全て一本の紐で繋がっているようにずるずると出てくるのだ。もう訳が分からない。そうしてようやく端が見えた。


「よしっ。これで粗方この辺のは引き上げたな」

「「……」」


最初にあったゴミの山の二倍はプラスされた。


《こっちも乾燥までできた。あとは任せるんでしょ?》

「そうだな。あまり仕事を取ってもまた嫌われそうだ」

《ここまでやってる主様を嫌うとか信じらんないよ》


清晶は怒りながらも高耶の手や服を洗って乾かす。乾かすと言っても、清晶がやるのは水気を取るということだ。そうして、引き上げたゴミも乾燥させてくれたのだ。


「高耶君……さっきの引き網漁みたいなのなに……? あれも秘伝の?」

「え? ああ。そうですよ? 実際に漁師の技です。その地の水神にもらった技だそうで。陰陽術に近いんですよ」

「……漁師の技まであるなんて……」


源龍もそうだが、統二さえ呆然としていた。


そこへようやく充雪と共に水神が近付いてきたのだ。


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