第111話 理解ある依頼人は助かります

高耶は完全に異界化も解け、場の調律も有効になっていることを確認しながら校内を見回っていた。


先ほど合流した綺翔は先に校長室へ行ってもらったので、傍にいるのは常盤だけだ。


常盤は騎士か秘書のように高耶の後ろを付き従う。


「珀豪達が出て行ったな……統二と俊哉もか。俊哉には明日また質問攻めにされそうだ」


カナちゃん達の母親への説明も珀豪ならばちゃんとしてくれるだろう。アフターケアもできる優秀過ぎる式神だ。


そして、統二と同じ制服を着ていた少年を送るのにわざわざ俊哉も一緒に行ったということは、そういうことかと納得する。


俊哉はあれで案外、人を見る目もあるし、気遣い屋だ。統二が少しあの少年に身構えていたことを考えると、いい関係ではないのだろうとわかった。その間を取り持ってくれる気なのだ。


「あの二葉という少年とよく似ている子がいたな。あの感じだと兄弟というか……親戚ってとこか」


高耶はただ似ているからそうだと言っているわけではない。これは陰陽術の一つ。血を見分ける力による見解だ。


それが兄弟の関係や親子関係ならば、DNA検査よりも早く確実だ。骨相こつそうでも判別できたりする。血が近いかどうかも一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


《はい。少年の内の一人の生家が仙葉家。二葉という少年の本家に当たるようです》

「そういう関係か……もしかして、統二のこと気に入らない感じなのはそれが関係してるか?」

《そのようです。仙葉家にはあの二葉の少年より一つ年上の男子がいるのですが、本家だという矜持が高いようです》


仙葉せんば家は代々酒屋をしているらしい。大きな酒蔵もある酒造しゅぞうで、本家だ分家だと色々小さい頃から言われたようだ。


統二が秘伝という本家の人間だとどこかで知り、一方的に毛嫌いしていたのだろう。


《鬼渡にそこに付け込まれたようです。降霊術が危ないと教えられた上であの年少の少年に教えたのだとか》


学校で流行らせる危険性も理解した上で鬼渡は彼に広めるように言ったのだろう。


《今日はその成果の確認だったようです。学校からの帰り道であの鬼渡に連れて来られていました》


先に学校を出た統二よりも先に、二葉少年は薫によってこの学校へ移動していたようだ。


《上手くいけば仙葉家の少年は呪われ、本家自体にも厄災が及ぶと言われたと》

「なるほど……その本家、ここの土地神の守護範囲内か」

《はい。あの少年の憎悪が酷く、仙葉家にも数体、落ち武者の霊が出ておりました。ご指示なく処理しましたが、よろしかったでしょうか》


常盤は光の式神。光の精霊だ。異界の中に閉じ込められていても、ほんの一瞬光さえ通れば出入りできる。そうして、常盤は土地神の守護範囲内の土地を見回ってくれていたのだ。


因みに、二葉という少年の情報は黒艶から送られていた。情報を引き出すのは黒艶。それを精査し報告するのが常盤だ。これは光と闇、両方を扱える高耶でしか実現しない関係だった。


「ああ。ありがとう。そちらまで手は回らなかったからな。助かった。他に被害は?」

《ありません。後は落ち武者達を連れてきた場所の特定をいたしました》

「北の河川敷か」

《はい。確認して参りましたが、全て丸ごと転移させたようです。水神が戸惑っておりました》

「後日、伺うと伝えてくれ」

《承知しました》


他の所にまで、もれなく迷惑をかけているとはやってくれる。ちょっと苛ついていた。


校舎内をくまなく見て回った高耶は、校長室へ戻ってきた。職員室では、しきりに首を傾げながら仕事をする湯木の姿があった。他の教師達も少し呆っとしながらも机に向かっていた。


そちらに目を向けないように気をつけながら、高耶は校長室へ真っ直ぐに進む。一瞬、こちらに湯木の目が向いたようだが、気にせず向かった。


きっちりとした白系のシャツでまとめた常盤を伴って迷わず進む高耶は、若い社長が訪問してきたようにも見えるだろう。高耶も今回は一応仕事仕様なのだから。


ドアをノックする前に源龍がドアを開けてくれた。


「高耶くんお疲れ様」


労われながら中に入ると、校長が駆け寄ってきた。高耶の手を取ってお礼を言う。


「本当にありがとうっ。ご当主がいなかったらと思うと怖くなってしまうわ」

「いえ。こちらこそ手伝っていただきました。大きな被害もなくほっとしております」


教師達も後遺症こういしょうもないようだし、ついでに湯木に憑いていたものも祓えた。被害はない。だが、もう少し遅かったらはっきり言って危なかったと思うのだ。


「あと数日、何度か様子を見させていただかないといけませんので、お邪魔することの許可をもらってもよろしいですか?」

「もちろんよ! お願いします!」


校長が事情も全部理解してくれる人で助かった。


「ありがとうございます。では、今日はこの辺で失礼します。また明日伺いますので」

「待ってるわっ」


寧ろ大歓迎してくれているようだ。


残っていた清晶、黒艶、綺翔は時島となにやら話しているのを少しばかり気にしながら頭を下げた。


一歩校長から距離を取ると時島と目が合った。


「蔦枝……また来るんだよな?」

「はい。また明日伺います」

「そうか。いや、仕事が終わったらゆっくり話をしよう。お茶をしながらな。煩いが和泉も一緒に」

「はい」


今後の約束をして高耶達は源龍と共に学校を後にするのだった。


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