第104話 ここなら安全

珀豪と清晶の気配が変わったと感じたのは、統二だけではなかった。


「……ハクちゃん? こわいよ?」

《ん? おお、すまんな優希。大丈夫だ。主殿がすぐに来てくれる》

「ほんとう?」

《うむ》


優希の頭を撫でながら珀豪が答えたことで、他の者達も緊張を解く。


「あの、ハク……さん? 先生方の他に生徒は残っていないか確認できますか?」


校長が心配しているのは、学校に生徒が取り残されていないかということだ。


しばらく何かに集中した珀豪が告げる。


《鬼渡の所に四人……一人は大人だな。大きな虫を付けた教師だ。小さいのは二人……それと、統二と同じぐらいのが一人だ》

「え?」


統二は同じくらいと言われて不思議に思う。


《うむ、清晶。映せるか?》

《いいよ》


清晶は両手を前に出す。そこに水がクルクルと集まり鏡を作り出した。頭から胸元の下くらいの楕円形のものだ。


美しいクリスタルの細工がそれを縁取っているように見える。


鏡に映ったのは、呆けてしまっている男性教師と、少女を前にして怯える小学生の男子二人。それと、二人をかばうように立つ少年だ。


「え? 二葉君?」

《同じ服だな。統二の知り合いか?》

「はい……同じクラスの子です……」


彼は統二に帰り掛け、声をかけてきた一人。三人でいつもつるんでおり、リーダー的な存在だ。


よく見れば、後ろにかばっている二人のうち一人が彼によく似ていた。兄弟なのかもしれない。


《これは……出てくるな……》


その時、彼らと鬼渡の少女の間の床から何かが出てきた。


「うそっ! 骸骨!?」

《清晶》


ミナミ達が怖がったので、清晶は鏡を抱えて向きを変える。


現れたのは、ボロボロのよろいを付けた骸骨がいこつ。戦国感溢れる出で立ちだ。真実、そうして戦いで果てた者の成れの果てだろう。


《おかしな場所から連れてきたな》


珀豪は冷静にそれを見つめる。これに、清晶も真面目に告げる。


《主様から聞いたことあるけど、この辺りの合戦場はもっと北。ここの土地神の加護範囲には入ってないはずだよ》

《主が知っていて放っておくとは珍しい》

《主様なら絶対綺麗に弔ってるもんね。またどっかの家がやるとか言ったんじゃない?》

《ありえるな……》


これを聞いていた統二と校長は理解したらしい。


「離れた場所から霊を連れてきたのですか?」


校長の問いかけに珀豪が頷く。


《そのようだ》

「複数をなんて、無理ではないですか?」


統二も首を傾げている。


《確かに、陰陽師には無理だ。だが、魔術師ならば可能だろう》

「あっ……」


思い当たったらしい統二が声を上げる。これに清晶が補足した。


《主様、前に鬼渡と会った時、陰陽術と魔術が変に混ざってるみたいな気持ち悪い感じがしたって言ってたよ》

「なら鬼渡は……」


統二も鬼渡についての話は聞いていた。だが、都市伝説のような曖昧あいまいなものだと思っていたのだ。秘伝家が今まで関わっていなかったというのもある。


もしあったとしても、相手は鬼なのだ。相手にするのはそれこそ高耶のような首領レベルの話だろうと思っていた。


《中途半端に魔術も取り入れてるんだろうね。それより、そろそろこっちにも来そうなんだけど》

「え?」

《む、いかんな。統二、この部屋に結界を頼む》

「あ、はい!」


言われて反射的に統二は結界を張る。何が来るのかというのも考えるのは後回しにしていた。


だが、それを知ってさすがに震えた。


「あ……っ」

「っ、うそ……」

「やだ……っ」


廊下側にある小さな小窓。カーテンがあって普段は中を覗けないようになってはいるが、そこからチラリと見えてしまったのだ。


同時にカリカリとドアや壁を削る音が聞こえた。


「うわ……マジで骸骨……落ち武者ってやつ? もしかして、入って来ようとしてんの?」


ここでも俊哉は俊哉だ。とても正直に口に出す。


《心配いらん。四等級の結界ならば、まず入って来られん》

《三等級なら結界に触れた端から浄化できたけどね》

「……すみません……」

《これ、清晶っ》

《ホントのことじゃん》


こっちもある意味正直なやつだ。


《十分だ。これで主が来るまで持ちこたえればどうにかなる》


そのはげましに、統二は苦笑しながらも頑張ろうと気合いを入れる。しかし、ここで更に俊哉が口を開いた。


「けど、さっき見た四人? だっけ? あっちはヤバくない?」

「そ、そうですっ、生徒たちがっ」

《うむ……ならば、我が行こう。鬼渡は底が知れぬからどこまでやれるか分からぬが、主が来るまでの間の時間稼ぎぐらいはできよう》

「ハクちゃん、いっちゃうの?」


泣きそうな顔をしている優希。珀豪は微笑みながらその頭を撫でた。


《心配いらぬ。清晶を残して行く。万が一もここは大丈夫だ。我も無茶はせんよ。何より、主殿がもうそこまで来ておる》

「ほんとう?」

《うむ。大丈夫だ》


そう言ってから珀豪はドアをすり抜けて出て行った。


それを見て目を見開く母親達と不安な顔をする優希達。


これにここを任された清晶はため息をつくのだった。


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