第053話 謝罪を受け入れます

麻衣子は気まずい様子で高耶の方へと近づき、勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさい!」

「……」


泉一郎達も驚き、麻衣子へ目を向ける。彼女だけは、まだ庭先に立ち尽くしていたのだ。


優希と珀豪、綺翔は関係ないものとしてお茶を続けていた。


そんな中、麻衣子は続ける。


「私、失礼な事を言って……助けてもらったのにお礼も言わなかった……」

「……」


高耶は黙って頭を下げ続ける麻衣子をしばらく見つめる。それから、どういうことかと泉一郎へ目を向けた。すると、泉一郎が苦笑しながら説明してくれた。


「その、麻衣子は高耶くんのような若い青年が、私に近付くのが怪しいと思ったらしい。昔と違って、ここらは観光地になってきていることもあって、詐欺や何かに合わないかと心配していたようでね……」


ここで言葉を濁す泉一郎。その後を優一郎が続けた。


「実際に、この土地目当てでおかしな契約を迫ってくる者の話があったので、警戒していたのです。何より、都会の人がこんな田舎の道場にやってくるというのは珍しいですから」


その考えは理解できた。秘伝の者である高耶ならばともかく、突然、知り合いのツテも持たない青年が道場を見に来たら警戒するだろう。


その上、年配の者が、そんな一見いちげんさんにいきなり親しそうにしていたら、何か騙されているのではないかと周りは気にするはずだ。


「本当にごめんなさいっ」

「いや……誤解しているというのは、泉一郎さんに聞いていたし、仕事の関係上、誤解させたままにしてほしいと頼んだのもこちらだ。別に謝ってもらう必要はない」


麻衣子と会ってすぐ、泉一郎から電話はもらっていた。その時は、麻衣子の知り合いだという少女が鬼と関わる者かもしれないという予想を立てており、高耶の情報が流れないようにするために、秘伝の者であるということを、あえて黙っていてもらったのだ。


更に誤解して、警戒していくのを止めようとしなかった。こちらの事情もあったのだ。別に責める気は高耶にはない。


「でもっ……あんな態度を取ったのに……助けてくれた……」

「それが仕事だった。寧ろ、泉一郎さん達に危害が及ぶのを止められなかったことについては、こちらが責められるべきだ」

「そんなっ」


麻衣子という接点があったのだ。あの少女を怪しいと思った時点でここに危害が及ぶ可能性を考えておくべきだったのだ。


しかし、これには泉一郎も反論した。


「高耶くんに力があることは分かっているが、だからといって、何でもできるわけではないだろう?」

「ええ、一人では限界があります……だから、彼らのような式神に協力してもらっていますが……」


高耶だって万能ではない。いくら陰陽師としての能力が高く、更に秘伝家特有の身体能力を持っていたとしても、人一人ができることなどそう多くはない。


「何より、高耶くんは今回、この土地を守ろうとしてくれていた。そんな中で私たち数人のことまで特別に気にする余裕はないはずだ」

「……秘伝のというのなら別ですが、確かに今回は陰陽師としての仕事でしたからね……」

「そうだろう。ここにあの子が来て、私達に向かってきたことは、高耶くんのせいではないし、大事に至る前に助けてくれたじゃないか」

「そうですが……」


最悪の事態にはならなかった。それを食い止められたのは幸運だった。


「ならばやはり、私達は君に礼を言わねばならない。麻衣子が謝るのも当然だ。それを受け入れてくれないか?」


全て上手くいくなんてことは稀だ。麻衣子が誤解したままであったことも、彼らが襲われたことも、結局のところ最悪の事態にはならなかった。


「結果良ければ全て良しというだろう。そういうことだよ」

「ふっ……そういうことですか。では彼女の謝罪を受け入れます。なので、もう頭を上げてほしい。せっかくのお茶が楽しめない」


優希を見れば、どうやら、三つ目のお菓子に手を出そうとして珀豪に食べすぎだと怒られているところのようだ。まだ高耶は一つも食べていない。このままではお茶も冷めてしまう。正直にいって、ここらで打ち止めにしたいという思いがあった。


そんな高耶の考えが読めるわけもないだろうが、麻衣子は最後にもう一度深く頭を下げた。


「っ、あ、ありがとう……たっ、助けてくれてありがとう!!」


いい加減面倒くさくなってきていた高耶は、苦笑を浮かべて適当に答える。


「ああ。無事で良かったよ」

「っ!?」


それを聞いて、麻衣子は顔を真っ赤にしていた。高耶の浮かべた苦笑が、微笑みのように見えたらしい。


「麻衣子……」

「不憫な……」


見ていた泉一郎と優一郎は、優希の世話を焼き出した高耶と麻衣子を見比べて引きつった笑みを見せていた。


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