嫌な夢

愛斗の体は汗に覆われていた。

吐き気もする。

そして、とても嫌な予感がした。

大切な幼馴染が…。

愛斗は迷わずスマホを取り、芽衣に電話を掛ける。

未読無視をしていた芽衣からのメッセージにも、何のためらいもなく既読をつけた。

プルルルル

愛斗の右耳に、緊張感のある呼び出し音がこだまする。

何回コールしただろうか。芽衣に繋がってほしい、その一心でスマホを耳にあて続けていた。


「もしもし?」

聞き慣れた声が愛斗の心を落ち着ける。

「もしもし、芽衣?今どこ?」


「今帰ってる途中」


「分かった。気を付けて」


「えっ…」

芽衣はその後に何か言いたい、訊きたいという様子だったが、愛斗は電話を切り家を飛び出した。


帰宅ルートはどこからだとしてもほぼ一択だ。

そこを辿って行けば芽衣に会えるはず。


間に合ってくれ


愛斗が芽衣を探すため恐怖感と闘いながら必死に走っていると、車の気配を感じた。

後ろを振り返ると、ヘッドライトが眩しくてよく見えなかったが、夢で見た車だった。

目が覚めた時ははっきりとは覚えていなかったが、今思い出した。

白いハイブリッドカー。その筐体が、これから芽衣の命を奪うのだ。

愛斗はその車の進路を塞ぐように、車道の真ん中を走った。


「ここだ」


口の中で呟くとその瞬間、突き当りのT字路の左側から扇ヶ浜のジャージを着た女の子が歩いてきた。


「芽衣!!」

愛斗はその子の名を叫ぶ。

彼女が反応する間もなく、愛斗は彼女を壁に押し付けるように両手で被さった。

「愛斗…。どうしたの?」

芽衣が混乱を露わにしている時、愛斗の後ろを車が通る。


「危ねぇだろ!」

車のウィンドウを開け、愛斗に文句を言いながら悪夢は過ぎ去っていった。


愛斗は芽衣から離れて理由を説明する。


「実は、夢でさっきの車が芽衣を轢くのを見たんだ」


「えっ」


「僕も信じられないんだ。まさか本当に同じような状況が起こるなんて…」


「偶然じゃ…?」


「偶然かもしれない。けど、そうだとは何故か言えない」


「何で?」


「何でかは分からないけど、すごい嫌な予感って言うか。そんなのが働いて、体が勝手に芽衣を助けに行ってた」


「そうなんだ…」


「でも、なんにせよ芽衣が無事で良かった。とりあえず話しながら帰ろうか」


「うん」

事故を防いだ愛斗と、死を免れた芽衣は、歩き始めた。


「ありがとう、愛斗」

訳が分からないながらも芽衣は愛斗に感謝を伝えた。


「大切な幼馴染だからね」

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