気疲れ

「そうだったんだ...」

芽衣は、自分のベッドに仰向けになって呟いた。色々と考えごとをしていたが、いつの間にか芽衣は眠りについていた。


夏海が彼女の過去について語ったあとのことだ。

誰よりも夏海のことを理解できていなかったのは当事者である時田愛斗だった。

愛斗は、夏海と仲良くなったあとのことしか知らないのだ。夏海との関係を築いたのは今の愛斗でない。

いつ、どのように、なんで仲良くなったのかなんて知ろうとも思わなかった。知ろうとしないことはわざとではなかった。最初は生活に慣れるのに必死でそれどころではなかったから。


そして、その過去を語られた本人である芽衣の顔から曇りが消えていた。決意なのか混乱なのか。それは愛斗には分からなかった。


「わざわざ話してくれてありがとう」

これが芽衣が言った言葉だった。


愛斗は美咲と2人、特に何を話すわけでもなく静かに帰った。

愛斗には、美咲が意味もなく気を遣っているように思えた。


「ただいま」

2人で同時に帰宅を知らせる。


「おかえりなさい!どうだった?」

母が出迎えてくれた。

愛斗は母に、芽衣が優勝したこと、岳が勝ち上がったこと、それだけを伝えた。

美咲は母に色々と話したいことがあるだろうに、何も言わない。


愛斗と美咲は、愛斗の部屋に向かった。

愛斗は、勉強机の椅子、美咲はベッドに腰掛ける。


「なんか、色々あって疲れちゃった」

先に美咲が言葉を発した。


「そうだな。僕も疲れたけど、なんか悪かったな」

2人は目を合わせずに会話を続けた。


「全然いいよ。陸上の観戦できたし勉強にもなった。芽衣さんも...」


「勝ったのはよかったけど、これからどうなるかな、芽衣」


夏海が芽衣に過去を話したあとは、特に会話は生まれなかった。

陸上部のミーティングが始まり、陸上部の顧問、そして愛斗の担任でもある久城結香に帰されたので、仕方なく愛斗や美咲、夏海は帰路に着いたのだ。

あれから芽衣とは話していない。愛斗は、芽衣の心に秘めている想いが気が気でなかった。

それは美咲も同様なのだろう。そして夏海も。

みんな芽衣にいい結果を出して欲しいと願っている。同じ方向を向いているのだ。

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