魔力調査
ペンギン抗争を治めるためでもあるけれど、私たちはペンギンたちと地下迷宮を歩く事になった。
確かにここは迷宮らしく、ポンタの案内がなければ元の階段のところに帰ることすら難しい。
前を歩くポンタが言う。
「けど、進化するとなると調査を急がないといけないね」
その通りだ。それがどんな進化か、本人にも周りにも分からないのだから、早くポンタにこの世界の世界樹として頑張ってもらわなければいけない。
足元に溢れるペンギンたちを踏まないよう注意して歩く足を止め、私は迷宮の壁に触れる。さらりとした、冷たい肌触りの石の壁。淡く光まで放っている。
「どうしたの?」
ポンタが聞く。すると活きの良いアイスキャンディーを咥えたペンギンたちも私を見上げた。
「いや、私って特徴ないなぁと思ってさ」
魔法が得意な訳ではないように思う。手先が器用な訳でもなく、運動が得意な訳でも体力がある訳でもない。部長のように仕事ができる万能型でもない。
そんな事を、ふと心苦しく思ってしまったのだ。
「別に人と違ってなきゃいけねぇ訳じゃねぇんだ。気にすんなって」
棒だけになったアイスキャンディーを振りながら、一本角のリーダーがそう言った。
「得意な事が見つかるのは、とても幸運な事ですからね。見つからなくとも、きっとありますよ。イヌコさんだけの何かが」
部長にそう励まされ、私はまた歩き出す。
しばらく精霊たちやキノコ、アイスキャンディーたちを観察しながら進み続けた。
気付いた事は、この迷宮には地の精霊と水の精霊しかいないという事。それから、意識を集中すれば魔力の流れを目で見る事ができるという事。
「ダメだ。見えないっすよ」
魔力を見ようとしていたリスくんが溜め息交じりに言う。
「そう? 目に力を入れる感じでさぁ。見えない?」
「見えないっす」
「私も見えませんね」
部長もそう言って、首を横に振った。
すると、ふわふわと天井あたりを漂っていたポンタが降りて来て私の頭を撫でる。
「あったじゃない。イヌコの得意な事」
「う、うん。でも、見えるだけじゃ何の役に立つのか分かんないし」
私が照れ隠しにそう言うと、ポンタが笑う。
「それ、今だよ。魔力には川みたいに流れがあるって言ってたでしょ? その流れを辿って欲しいんだ」
そうだった、と私は思い出す。私たちは魔力調査に来ているのだった。
言われて魔力の流れを見る。茶色の地の魔力の流れ。その中に交ざる一本の青い水の魔力の流れ。
「二つとも同じ方向から来てるよ。そっちの角を左」
魔力を辿って進んでいると、ズン、ズンという規則的な揺れを感じた。地震ではない。どちらかと言うと足音だ。
「ポンタ。この迷宮に、私たちの他に誰かいるか分かる?」
「それなんだけどさ。いないんだよね」
「え? じゃあ、これは何?」
「だよね、見てみるしかないかな。あと考えられるのは、このキノコとかアイスキャンディーたちは僕には感知できないから、こんな感じの何かなら分かるけど」
私たちはポンタを先頭に、恐る恐る進んでいく。足音が近づいて来る。
「この角を曲がると広い場所に出るから、そこに居ると思うよ。気を付けて」
ポンタが忠告する。ゲーム的に言うと、ラスボスの間だろうか。
「魔力の流れも、この先から来てるよ」
私はそう伝える。だから、どうしてもこの先に行かなければいけないのだ。
こんな事になると、どうしても愚痴が出てしまう。
どうして私たちはこんなに手探りで、危ない橋を渡りながら生きなければならないのかと。宇宙災害に関しては神様たちにも不測の事態だったのだろうし、誰も悪くはない。
ただ、この新惑星の作りかけ感があまりにも酷い。
おまけにその神々は眠ってしまって、私たちは神々の眠る百年を生きなければいけないと言うのだから堪ったもんじゃない。
確かに命があるだけ儲けもんだ。それは感謝している。それでもだ。
私たちはそれぞれポンタに出してもらった木刀や木の杖を構え、意を決して角を曲がる。
バッと角から出る。ペンギンたちもワラワラと天井の高い広間に流れ出た。
円形の広間だ。天井は外国の城のダンスホールみたいに高く、壁はやはり石で固められている。
そこに魔力の流れの源を見つけた。
それは、金と銀の……。
「スライム……大きいね」
高さはおよそ三メートル。ふよよん、と楕円に伸びた体は硬めのゼリーのよう。
地の魔力は金のスライムから、水の魔力は銀のスライムから、その流れが始まっている。
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