無機質なエロス
自分がエロ小説の
本であることを知り
がっかりしていた男だったが、
いつまでもそれを
愚痴っていても仕方がない。
もうこれは
早く二周目を済ませて
この事実を過去の黒歴史に、
無かったことにしなくてはならない、
むしろその使命感すら感じる、
と逆ベクトルで
やる気にならざるを得なかった。
脱出方法に関しては
該当すると思われる能力を
既に見つけてある。
『催眠洗脳』
本を見た人間を催眠に掛け
洗脳し自由自在に操る能力。
前回ビーストを使役して
移動したことを考えると、
自分が動けない本である以上、
また誰かを使役する能力が
必要だということには
すぐに勘付いた。
まぁしかし、エロ小説を見せて
人間を催眠に掛けるというのは
彼としてもいささか気が引ける。
『エロで釣って、
本見たら催眠洗脳とか
卑怯にもほどがあるだろ
エロサイト見てたら
ワンクリック詐欺に
引っかかったってより
悪質じゃねーかよ』
-
この本をこっそり
立ち読みしようとした若い男子が、
男の催眠洗脳能力の餌食となり、
魔王を倒す為の尊い犠牲となる。
このエロ小説を借りて
本を図書館の外に持ち出し、
そのまま借りパクの
汚名を着てもらうという
あまりにも過酷な尊い犠牲だ。
思春期の彼の心に深い傷を
残してしまうかもしれないが、
知らない内に
エロ小説の本にされていた
自分よりはよっぽどいいだろうと
男は心底思わずにはいられない。
そこから先はまず
人の手を渡り歩くことが肝心、
お金が流通するように
いろんな人を渡り歩けば
いつか魔王の関係者の手に
渡ることもあるだろう。
その為、
催眠洗脳に掛けた人には
必ずこう言わせる。
「これはこの世界にとって
重要な魔導書です、
是非大勢の人に
読んでもらわなくてはなりません」
本になった男、
別に見栄を張った訳ではない。
まず魔王がエロ小説を読むとは
到底思えないので、
内容に関しては偽る必要がある。
魔王を倒す
使命を帯びた本なのだから、
この世界にとって
重要なのは嘘ではない、
中身はエロ小説ではあるが。
魔導書と言うのも
『魔導の書』と言う意味ではなく、
『魔王の元へ導かれるべき書』
と言う意味だと
苦しい言い訳を考えてみる。
-
それから何十年も掛かり
何万人の手を渡り流れた本は、
ようやく魔王の関係者へと辿り着く。
そしていつも言わせている台詞に
さらに一言を付け加える。
「是非、魔王様に献上したい」
だがここからが問題で、
本である自分は
直接魔王を攻撃出来ないし、
魔王自身に直接
催眠洗脳が掛かるとも思えない。
一体どうやって魔王を倒すか。
理想的なのは
魔王の副官がこの本を見た際に
催眠を掛けて魔王を暗殺させる、
これがおそらく一番
成功確率が高い。
献上された本を
魔王の女性副官が手にし、
中を見ずにそのまま魔王へと差し出す。
「君は本の中身を見ないのか?」
予想外にダンディで紳士そうな魔王が
副官である女性に渋い声で尋ねる。
「そうですね、本のタイトルが
『無機質なエロス』ですから、
私にはちょっと……」
女性副官は顔を赤くして答えた。
『え、何?
ちょっと待って、
この本てそんなタイトルだったの?』
本になってから
既に何十年も経っているのに
今更ながらはじめて
自分のタイトルを知った本の男。
こんなエロそうなタイトルなのに
よくここまで魔導書と
言い張って来たものだと、
自分がしたことに対して
顔から火が出る程の
恥ずかしさを覚える、
本だから顔はないのだが。
「そうであったな、
女性にこのようなタイトルの本を
読ませようとするなど
セクハラになってしまうな」
紳士な魔王は
女性副官にそう言って詫びる。
『いや、
お前等魔族なんだから、
セクハラぐらい
もっとガンガンやれやっ!
もっと乱れろやっ!
もういっそ、
その女にこの本、声出して
朗読させるぐらいしろやっ!』
予想外の展開に本の男も
もうヤケクソになっている。
もう仕方がないので、
魔王が本を手に取り
パラパラページを捲ったところで、
ヤケクソになって
催眠洗脳を使ってみたところ、
意外なことにこれが見事に効いた。
結局、今回の
ダンディで紳士な魔王は
エロ小説を見ながら
自殺を図ったという、
魔王本人からすれば
遺憾極まりない、
この上なく不名誉な死に方をして、
二周目は終了するのだった。
その後、しばらく
本の勇者だった男は、
お金になったり、
剣になったりしていたが、
それ等はすべて
催眠洗脳で乗り切った。
ここまでで一番辛かったのはやはり
エロ小説が書いてある本の勇者であろう。
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